適当に書いてく短小説集

プル・メープル

初恋の彼女

放課後、いつも窓から外を眺めている少女、A子ちゃん。彼女は僕の初恋の相手だ。まともに会話をしたこともないし、向こうが僕のことを知っているかもわからない。


もしかしたら「誰?」と言われるかもしれない。


そんな怖さが僕の足をいつも止める。


だから、僕はいつも、夕焼けが出る頃まで図書館で時間をつぶしてから教室の前を通る。

彼女はいつも夕日を浴びながら校庭を見下ろしている。そんな彼女の姿が凛々しくて、僕は一目惚れしたんだ。


普段も笑顔が可愛いし、人気もあるし……。

そんな彼女が校庭を見下ろしているのはきっと、好きな人でもいるんだろう。


校庭を使っているのはサッカー部か……。

僕はいつも彼女の背中を見つめているけれど、彼女は別の場所を見つめている。


けど、ある日、忘れ物を取りに戻った時、いつものように彼女は外を見ていた。でも、彼女の様子がなんだかおかしい気がする。背中が震えている。


(泣いてる……?)


すると、いきなり彼女は窓枠に乗った。飛び降りようとしているのか。そう思い、体が勝手に動いた。


「だ、ダメだ!」


ギリギリで彼女の腕をつかむ。強引に引っ張り、なんとか教室内に引き戻した。


「な、なんで……?」


彼女は背中を向けたままだったがはっきりとした声で言った。


「だって……好きな人が話しかけてくれないもの。いつも見つめてるのに……。」


「だからって……死んじゃダメだよ!」


「本当にそう思ってくれてるの?」


僕は力強くうなずく。


「じゃあ、私と付き合ってくれる?」


「え?君は僕を見つめてなんていないじゃないか。」


「ううん、見つめてるよ?あなたはいつもこの時間に教室に来る。」


不思議だった。気づいていないと思っていたから。それに、見つめられた記憶もない。


「君はいつも外を見つめているじゃないか?」


「ううん、私はいつもあなたを見てたよ?だって……」


彼女は後頭部の髪をかき分けた。


「え……?」


「ほらね、私、ここにも目があるのよ?」


その目は笑っていた。


それからの記憶はない。


今は、この手紙を後ろにある壁を使って書いています。僕の目は今、ひとつしか見えなくなったから。

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