第20話 VS時空の捻れ“交錯する輪廻”
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変態の生態は未だ解明されていない。
今もこちらから、あちらの世界の変態を観察するだけでもフリーズする時がある。
あの実体の無い、玉のような煙は変態の核のようなものだと推測する。
あちらの世界からの画像だけで、こちらの世界に及ぼす影響があることが確認された。
マシンも再び立ち上がった。
引き続き、変態の生態を見ていこう。
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実体の無い、玉のような煙は静かに変態の前に漂っている。
「遅かったか…おわッ!」
老人が杖を掲げて結界を張りながら駆け付けると、玉のような煙はその結界ごと老人をも取り込んだ。
変態は宙に浮いたままがっくりと項垂れている。
いや、この玉のような煙が変態なのだ。
グランドベヒモスもいつの間にかいない。
しばらくその場を漂っていたが、その内消えて無くなった。
スタン
変態は地面に降り立った。
「ふむ」
胸の穴はもう無い。
変態は高速スキップで弾み出した。
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「アルシオン」
ラバースーツの女に変態は呼び掛ける。
女はプゥ~ベコンプゥ~ベコンを繰り返している。
変態はその心に、マグナムとその師匠であるアルフォートを取り込んでいた。
変態がアルシオンと呼んだラバースーツの女はアルフォートの祖母である。
地下ダンジョンに点在する時空の捻れが及ぼした悲しい物語。
メビウスの輪のように、3人はお互いの人生を複雑に交錯させていた。
アルシオンには息子がいる。
しかしそれは時空の捻れにより子宮の奥深くに封印されていた。
それを施したのはアルフォートである。
なぜならば、アルシオンが子孫を繋がなければ自分達の存在が危うくなったからだ。
『時空の捻れ』には様々な種別が存在することが確認されている。
アルシオンがこのダンジョンで迷い込んだ『時空の捻れ』は“交錯する輪廻”。
自分の一生を幾度と無く繰り返す無限の時間。
天寿を迎え、その直後に同じ時間を巻き戻される。そしてまた同じ時間を生きる。
このダンジョンの中だけでだ。
もう何万回繰り返しただろうか?
時間が巻き戻る度にかつての苦悩を何度も何度も逆戻りに体験させられる。
殺されてもそこから。
何度も何度も
何度も何度も
その内、アルシオンは疲れてしまった。
その個体にしては極限まで鍛えられた身体を以て、製作した特殊ラバースーツに身を投じていた。
永遠にプゥ~ベコンする世界。
産まれてから、寿命を迎え、また誕生に向けてプゥ~ベコンを繰り返す。
そうしてアルシオンは子供を産まず、永遠にプゥ~ベコンを繰り返す人生を選んだ。
兄であるマグナムも同じ、永遠の時間をさ迷っている。
二人は仲の良い兄妹ではあるが、何万年の中で常に一緒にいる訳ではない。
お互いが別々に生きているのだ。
お互いが歴戦の戦士なのだ。
その中で、マグナムは妹がこの無限の時間から逃げ出したことを知った。
それと同時期にアルフォートが時空の狭間から姿を現した。
“時空の狭間”と“時空の捻れ”は絶妙のバランスで繋がっていた。
この時から未来の時空には、アルシオンの子孫がようやくダンジョンを踏破しその力を以て国を興し、統治していた。
二代目王であるアルフォートが危機を感じたのは、ある日突然自らの身体が薄くなったことによる。その日はアルシオンがラバースーツに入った日だった。
父から聞いていた。
祖母は時空の捻れで父を産んだこと。
時空の捻れからは逃れられないこと。
幾年か経過して、身の危険を感じたら、このグランドベヒモス・ティアーのペンダントを祖母にかざすこと。
そうやって父からアルフォートはグランドベヒモス・ティアーのペンダントを受け継いでいた。
しかし、アルフォートが時空の捻れを通過した時、そのペンダントは忽然と消えていた。
祖母から受け継がれたペンダントは、その従者であったグランドベヒモスの涙から作られることは聞いていた。
そこでまずアルフォートはグランドベヒモスを探す旅に出た。
グランドベヒモスが祖母に従事していたことは知っていた。
そして遂にグランドベヒモスを見付けた時、その傍らにいたマグナムとアルフォートは出会った。
グランドベヒモスに涙を流させる為にアルフォートは戦闘を仕掛けると、マグナムは有無を言わさずアルフォートを駆逐しようとした。
しかしアルフォートはそれを返り討ちにする。
戦闘中、話をする中で目の前の若者は自分の大伯父であることは理解できた。
ダンジョンを出るにしても、何にしても必要な力であることを理解していたアルフォートは、磨き抜かれた父から受け継いだ力を用い、マグナムを完封なきまで叩きのめした。
そしてその力はマグナムが追い求めていた力だったのだ。
それもそのはず、その力はマグナムから父へ、父からアルフォートへ受け継がれた力だったからだ。
マグナムの探し求めた力は相手の心に干渉する力。
それはアルシオンの息子により、外の世界で完成されていた。
『戦わずして勝つ』
ある程度力が備わると、戦いの消耗が次の戦いの枷になる場合が往々にしてある。
そして、半端な強者ほど己の負けを認めずに何度も立ち向かってくるのだ。
消耗せずに屈伏させることが出来れば、お互いに傷付かずに不要な戦いを避けることが出来る。
その為には心から相手を屈伏させることが必要となることまでマグナムは気付いていた。
それを操る謎の
その技の一つとして、相手の心に通ずる穴を開ける方法を身に付けたのだった。
それは、グランドベヒモスの心に干渉して涙を手に入れる為だった。
グランドベヒモス・ティアーの話はアルフォートから聞いていた。
アルシオンを目覚めさせる為にはグランドベヒモス・ティアーが必要であること。
アルフォートにも必要なものであったが、アルフォートはそれを上手く隠した。グランドベヒモスを襲ったのは戯れに過ぎないこととし、マグナムから事情を聞くと、祖母アルシオンが時の捻れに抗い、永遠の眠りについたと言う。
アルフォートはアルシオンの元に行き、辛うじて反応のあった父の因子を祖母の子宮に留めるに至った。そして、アルシオンを目覚めさせる為にはグランドベヒモスの涙がまずは必要であることを諭した。
肉体を極限にまで鍛えていたマグナムにとって、妹のペットであるグランドベヒモスなど恐れるに足りない。しかし、いくら痛め付けてもグランドベヒモスが涙を見せることは無かった。
その内にこの魔獣を殺してしまうだろう。
そう思っていたマグナムへ、アルフォートは更に道を示した。
それは心を解放させる秘法だった。
かつて父から学んだこの手法は、国を磐石化させる為に何度も役に立った。
父はダンジョンを踏破する為に必要なことだったと言っていた。
それが何かは分からない。
マグナムは変態からグランドベヒモスに関わる心を覗きこもうとしていた。
マグナムの知能は高い。
頭の悪そうな会話は全て相手の心の隙間に潜り込む技だった。
相手の心が屈すれば操作するなど容易いのだ。
マグナムは長い修行の末にこの力を手に入れた。
全てはアルシオンを救う為に。
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変態は人の心の強さと脆さを同時に知った。
そして、“時の捻れ”から作られたラバースーツに自ら飛び込んだ。
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玉虫色に彩られた亜空間。
「「「ヴァッ!!!」」」
変態が腹の底から息吹を発すると、辺りは砕けたガラスのように崩れ落ちていった。
目の前には裸の女が一人寝ている。
「いよぉ!いよぉ!」
突然、変態がポンプおじさんのように横腹を叩くと、ピッ〇ロ大魔王のように、マグナム、アルフォートを吐き出した。
「アルシオンッ!」
マグナムは魔毒の涎まみれのまま這いつくばり、アルシオンにたどり着いた。
「う…ん?お兄ちゃん?」
「アルシオン…?アルシオン!!」
「…くさい…」
その様子を見て涙する全裸で毒まみれの老人アルフォート。
三人が全裸、内二人は毒まみれ、そしてパンイチの変態が一人。
カオスだ。
お菓子みたいな名前とはうらはらなお爺ちゃんの身体は薄くなり、消えた。
時空の捻れから解放されたのだ。
生死は、分からない。
しかし、解放された兄妹の未来は明るいはずだ。
「ウム」
「待ってくれッ!」
変態は踵を返してその場を去ろうとすると、マグナムが呼び止めた。
「わりぃな!」
マグナムは片手を上げてごめんのポーズをした。
「パイセ~ンッ!いいンスよ!シツレイシャス!」
変態は桜色の笑顔でそう言うと、高速スキップでその場を去った。
ちなみにグランドベヒモスは可愛いのでペットにするべく心にしまったままにしたことは内緒の話だ。
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