第19話 VSマグナム

「貴様は…強者か?」


変態は静かに現れた男へ問い掛ける。


「さ~あ?どうだろうねェ!?」


両腕が大砲のような銃になった男。


金髪のリーゼントは高く、人を小馬鹿にしたような視線を投げ掛けてくる。


「き…」

ダゥンダゥンダゥン!


「下がれッていッてんだろうがッ!?」


変態が口を開こうとすると、右腕から弾丸と言葉を被せてくる。


話聞かない系だ。


久しくこの手のご褒美と接していなかった変態は、しばし威圧される快感に酔いしれることにした。


ザッ…


変態は後ろへ下がる。


「まだだッ!見えなくなるまで下がりやがれッ!?

天使が…降りてきちゃうよ…!?」


堪らない!


特〇の拓風な何故か疑問系の台詞に変態は身悶えした。


シタタン!シタタン!シタタン!シタタン!


変態は後ろスキップをしながら男が豆粒になるまで後ろへ下がった。


頬は桜色だ。


「下がったぞぉ~♥」


ワクワクしながら変態は大きく手を振る。


「口を開くなぁッ!?」

ダゥンダゥンダゥン!


決して当てようとしない砲弾を打つ男。


「ハム!」

変態は口を閉じて右手でOKのジェスチャーをする。


「わかりゃーいいんだよ!?わかりゃー…」


シタン!


男はグランドベヒモスから飛び降りると、おもむろにグランドベヒモス・ティアーを拾い、眺めだした。


「へへ…これでアイツを…!ん…!?これは…!?

テメェ!コイツはテメェが出させたのか…!?」


変態は遠くで口を開かずコクンコクンと頷いた。


「チィ…!おぃテメェ!俺と勝負しやがれ!」


変態は遠くで口を開かずコクンコクンと頷いている。


「オィコラァッ!バカにしてンのかコラ!?」


バカになどしていない!口を開くなと言われたから黙っているのに…

なんという口撃ご褒美だ!


この理不尽さは…堪らない!


「お手合わせ…願おう…♥」


「くたばれクソ野郎ッ!」

ダゥンダゥンダゥンダゥン!


クソ野郎!

初対面の人にクソ野郎と言われたことはあるだらうか?

変態は無かった。


またしてもその口撃ご褒美に身悶えする変態。


しかも砲弾は狙っているとは思えない乱雑っぷり。


「かかってこいやオラァ!」


威嚇!


とりあえず大きい声と音を出す系のヤツだ!


じゅるり…


変態は涎を啜る。


シュン!

変態は大気を削り、一瞬でワープしたように鼻息の掛かる位置まで男の前に立つ!

男は確か“かかってこいや”と言っていた。ならば…


「ふぬーっ」


変態の毒息が男に掛かる!


「テメェ!なにしやがんだコラァッ!」


男は変態の胸ぐらの肉を鷲掴みにすると軽々と変態を持ち上げた。


痛い。

胸の肉、痛い。



変態好みの口撃ご褒美を惜しむこと無く与えてくれるこの男は間違いなく強者だ。


変態の毒が効かないこともさることながら、先程の大気を削る行為も少なからず向こうも引っ張られるはずだ。


“真空”には全てのものが吸い込まれるのが道理。しかし男は微動だにしなかった。

加えてこの握力。

変態もだいぶ鍛えてはいる。しかも毒付きの筋肉をいとも簡単に捻り上げるこの膂力。

ただ者ではない。


「あぁ、やーめた」


パッと男は変態の胸の肉を離すと、変態はストッと地面に降り立った。その顔はちょっぴり悲しそうだ。


「テメェ、なんで本気出さねェ?」

「貴様もな」

「ハハ!まぁそうだな!」


白い歯が眩しい!

このツンデレ!

堪らない!


ズサッ…


変態の妙なツボにはまった男は、地面に座り込んだ。


「座れよ」


命令ご褒美だ!

変態はきちんと正座をして座る。男は片肘を付きながらあぐらをかいて変態を観る。


「テメェの名は?」

「へ…変態ですッ!」

「変態?テメェにゃぴったりだな!?」

「ありがとうございますッ!」

「変態よォ、テメェここでなにしてンのよ!?」

「強者と戦う為ですッ!」

「なンで?!」

「婚約者にそう言われたからですッ!」

「ふぅん…婚約者…ね」

「すみませんッ!発言しても宜しいでしょうかッ!」

「おゥ…なによ!?」

「お名前を聞かせてくださいッ!」

「…マグナム」

「マグナムさんッ!いい名前ですねッ!」

「あァ…!?どうかな…」


そういうとマグナムは懐からクシャクシャになった煙草を取り出すと、一本口にくわえ、使い古したジッポライターで火を付けた。


プカァ…


煙草の紫煙が辺りに漂う。


「テメェもやるか?」

「いえッ!自分、いいッス!タバコ、苦手なんでッ!」

「はァん?まぁいいケド…」


スパァ…フー


マグナムは変態に細く煙草の煙を吹き掛ける。


「ゲホッ!ゴホッ!勘弁してくださいッ!」


わざとらしく煙を避ける変態。


「ケッ!わざとらしンだよッ!…まぁいいか。テメェ見たんだろ?あのオンナ」

「はいッ!ラバースーツの女のことでしょうかッ!?」

「おぅ…アイツな、俺の妹な。手ェ出したらコロすからな」

「手ェ出さないッス!」

「おぅ…ンでよ、アイツの目ェ醒ますのにコイツが必要だったのよ?」

「グランドベヒモス・ティアーですねッ!」

「オメェ知ってンの名?」

「さっき解析しましたッ!」

「パねェなオメェ」

「それほどでもないッス!」


変態嬉しそうに照れる。


「ンでよ、コイツでアイツ起こすのに、コイツを泣かしたヤツじゃねェと使えねェのよ」

「マグナムパイセン!自分やるッス!」

「バカ!テメェなんか後輩じゃねェ!まぁいいわ。それがよ、コイツを解放させンのに、同じ力が必要なんだワ。それを師匠の前で解放させンだよね」

「パイセンに師匠がいるんスね!」

「おぅ…ホントはよ、俺がアイツグランドベヒモス泣かす為にアレコレやってたンだけどヨ」

「すませんしたァッ!」

「いや…もういいよ。悪かったナ…ンでよ、オメェちっと顔貸してくんね?」

「ザスッ!」

「…まぁいいわ、こっちだ」


マグナムはピンと煙草を投げ捨てると、おもむろに立ち上がり歩き出した。

変態はマグナムの捨てた煙草を密かに肛門にしまうと、後を付いていった。


(ポイ捨てダメ)


変態は心の中で呟いた。


「ぐ…!」

ズサッ…


変態は突然片膝を着く。


ドゴァンッ!


「舐めんなオラ変態」


マグナムは変態の頭を力の限り踏み抜いた。


地面にはクレーターのような衝撃孔が出来ている。


「すませんしたァ…ッ!」


ズカァッ!

ドゴォッ!


マグナムは変態を蹴り上げ、宙に浮いた変態の胸に右腕の大砲で撃ち抜いた。


変態の胸には風穴が空いた。しかしその穴の中は玉虫色になっている。


マグナムはそのまま変態の胸の中に手を入れると、中から一つ、実体の無い、玉のような煙を取り出した。


「…ッ!!!!!」


ズリュリ。


マグナムはその煙のような玉に音もなく吸い込まれた。


「…」


玉は辺りをフヨフヨと漂う。


変態は宙に浮いたままだ。


変態は宙に浮いたままだ。


変態は…ザザ…ゅうに…ジジ…浮い…ズズ…まま…


ザ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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