ロボット
二水
【ロボット】
今からは想像もできないほど技術の進化した未来のお話。
AI(人工知能)の技術も発達し、より人間に近いロボットが実用化される時が来た。
そしてとある研究所では、完全な人間とも言われるべき画期的なAIを搭載したロボットが試作された。
人間と同じように感性を持ち、経験によって進化していく、従来のプログラム通りにしか動かないロボット達とは一線を画した存在だ。
彼を一般家庭に配置した場合、いったいどのようにAIは進化するのだろうか。研究者達の興味は尽きない。
やがて、AIに社会経験をさせる実験に協力する家庭が現れ、滞りなく手続きは進み、その日がきた。
家族は温かくそのロボットを歓迎し、家族の一員のように丁寧に扱った。
家族とはいかなるものかをロボットは学習し、日を追うごとにまるで人間のように振舞うようになっていった。
傷心している娘を慰め、酒を嗜む主人に酌をし、着飾る婦人にアドバイスをする。
経験を忘れないロボットは、ある意味社会生活を営む上で人間以上の性質を見せ、中間報告を聞いた研究者たちは歓喜しお互い抱き合うほどであった。
変化が訪れはじめたのは一年ほど経った頃。
ロボットは人間に見られる社会的欲求も理解し、自分が人間とは明確に違うことに違和感を感じ始める。
家族はいるが友人はいない。
ロボットという性質上ものすごい馬力を持つがゆえに利用する人はいるが、彼に手を貸す人はいない。
彼は悩み始める。
そしてあるとき、研究者に自分を人間にできないかと持ちかける。
頭脳は人工的なものであり、生物の脳のような有機物には置き換えれないが、ある程度は人工の有機物に置き換えられるという話を聞き、ロボットは人間化への処置を希望する。
家族も大いに賛成し、ようやく彼は人間の条件である生命を得ることになった。
さわやかな青年の姿で再び家族の前に現れたロボット。
家族は彼が初めて家を訪れた時よりも手厚く帰宅を歓迎した。
しかし、困ったのはそこからである。
困ったのはロボットではない。
家族が、である。
ロボットは自分が人間になれた喜びを、自分の知識と文章力のみで綴り、本を出版した。
これがとんでもないベストセラーになり、さらに数カ国語に翻訳され、家庭には莫大な印税が転がり込んだ。
これには家族も大喜びだったのだが、その印税をめぐってあまり関わりのない親族たちがつきまとってくる。
行きつけの店の主人まで「ロボットの人間化に一役買った」と分け前を要求してくる。
さらに、それまで家族は彼を家族であり使用人として使っていたのだが、そうするとどこで聞きつけてきたのか人権団体が騒ぎ出す。
過酷な労働うんぬん。給金も払わずうんぬん。
さらにさらに、人間に近い体になったためにそれまでの馬力が出ず、人並みにしか重いものを持つことができない。
引越しの荷物のダンボールを運んでいる彼を見ると家族はいごこちの悪い気分になる。
あろうことか、彼はとうとうガールフレンドまで家に連れ込むようになった。
もともと整った顔立ちをしていて、なおかつ印税も莫大。研究誌どころか、新聞や週刊誌にも取り上げられたために、彼の顔を知らない者はいないほどの有名人。取り入ろうとする女は数知れない。
そして今度は浮気を記事にすっぱ抜かれ、慰謝料などを要求される始末。
彼が外出した隙に家族は会議をはじめる。
「とんでもないことになってしまった。我が家がロボットを使役しているうちは近所もどこも羨むような目で見てきたが、今じゃあいつが主役で私たちは邪魔なおさがりのような扱いだ」
「私も、気まずくてとても以前のように外に出る気分にはならないわ」
一番彼に慕っていた子供たちも、彼の変化に愚痴る愚痴る。
「決まりだな。研究所に連絡して返品を申し付けてくるよ」
ロボット 二水 @Derijou
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