銀の髪、銀の角をもつエーデム族は、慈愛の民。王族はその魔力「エーデムリング」によって結界を築き、自国の民を守護している。彼等に敵対するウーレン族は、燃えるような赤毛に赤い瞳を持ち、尖った耳の先には赤い産毛を持っている。血を好む戦いの民だ。――人間達から魔族と称される彼等は、混血が進み、勢力は衰えつつあった。
ある夜、ウーレン皇女・ジェスカ率いる軍が、エーデム王・ファウルの結界を破り、エーデム王城へ侵攻した。王妃・セーナは、まだ赤子の王子を救うため、巨鳥の翼に彼を託した。
凱旋したジェスカ皇女は、自分の行く手を遮った幼児にいら立ち、彼の乳母を手にかけてしまう。幼児は彼女の忌み嫌う息子、第二皇子ギルトラントだった。乳母の血を浴び、自身も傷つけられた皇子は、泣き叫ぶ……。
巨鳥の翼に護られた赤子は、人間の島に辿り着き、歌うたいの娘に養育された。心優しき少年に成長したメルロイは、やがて、赤毛・赤い瞳の少年ギルティと出会う。
「自分は何者か」を探す二人の少年が、友情を育み、戦い、やがて運命を超えていく物語――。
魔族の容姿や風俗の描写に、(’70~’80年代の)古典的な少女漫画のファンタジー作品を想い出し、懐かしい気持ちになりました。やわらかな筆致で描かれる戦闘や登場人物たちの葛藤は、時に激しく、悲しく、痛々しいものですが、あくまで美しさを保っているところに、文章力と作品の完成度の高さを感じます。
貴種流離譚、人種間の差別、恋愛、旅と友情、兄妹・母子の葛藤と衝突、そして戦争――永い物語の末に、少年たちが辿り着いた結末には、誰もが拍手喝采することでしょう。
血の宿命に縛られるとはどういうことなのか、と。
終始一貫して、この物語は読者に問い掛けてくる。
銀色と赤色、正反対の性質を呈する魔族の血は、
銀色の少年と赤色の少年の友情を弄ぶかのようだ。
銀色の髪を持つ少年メルロイは村でも異質だった。
そんな色をした人間はいない。魔物かもしれない。
でも、村は彼を育て、日々は穏やかに過ぎていた。
ある日、突如として彼に銀色の角が生えるまでは。
親しい人々と別れ、メルロイに旅の仲間ができる。
赤色の髪と目の、誇り高き魔族の少年ギルティは、
メルロイの前に気紛れな優しさと残忍さを見せる。
ギルティの複雑で強い願いが、過酷な旅の道標だ。
次第に明かされていく歴史と宿命は痛ましい程で、
その渦中に自ら身を投じるメルロイとギルティの
物悲しい覚悟に幾度も、やるせなさが込み上げた。
作り込まれた世界観の幻想異郷譚、堪能しました。