星(カケラ)

定食亭定吉

1

 正月。一家団欒。そんな言葉は程遠い滝羽家。それなりに正月らしく、おせちと雑煮を作った母、里菜の再婚相手、父、司。

「おい、お前も食べろ!」

「いいよ。あなたの不味いし」

母、里菜の連れ子、礼太。高校に馴染めず、中退してフリーター。

「わかった。でも無駄になるから食え」

「はいはい。あなたは非正規だしね。俺のバイト代もほとんど持っていかれるし」

礼太なりに家庭の事情を受け止めているからこそ、キツイ言葉も出る。

「母ちゃんは今日も仕事だろう?」

「あの人は病棟だからね」

母、里菜は看護師。礼太は幼少期は鍵っ子だった。

「まあ、今日ぐらいはな。一家団欒しないとな」

洗濯物を干しながら言う。家事は司が担当。

「何、言っているの?今までそんな事なかったし」

「まあ、今年からはそうする」

「今頃ね」

「たまには家族三人、どこか行かない?」

「まあ、嫌ではないけれど。どこ行っても混むでしょう」

人混みが苦手な礼太。

二人とも、行き先の選定に悩む。礼太の部屋へ行った時、司は彼の星座図鑑を発見したのに気付いた。

「夜、星でも見に行く?」

「えっ?まあ、それならお金かからないしいいかも」

「じゃあ、母さん待とう」

(夜)

 近所の川沿いに所在した公園から星を見る三人。里菜と現地で待ち合わせする。船着き場に遊覧船が何船か停泊している。

「船でも乗るか?」

値段と相談しながら誘う。

「いいね。でも、たまには奢らせてもらうよ」

礼太なりの気遣いだ。

「ありがとう❗」

親孝行を受け取ることにした里菜と司。早速、遊覧船に乗り込む三人。

「俺達の貸し切りだな」

「うん」

「岸からあまり離れていないみたいね?」

仕事帰り。そこに直行した里菜。眠そうだ。

「燃料の節約でしょう」

「相変わらず冷めているね」

久々に会話する里菜と礼太。 

「何か浮いているのか?本当に汚いぜ」

水面に絶望する司。

「夜で暗いからわからないでしょう」

ツッコム里菜。

 双眼鏡で星を観察する礼太。

「星は一個では星座にならないだろう」

礼太に質問する司。

「うん、単なる星(カケラ)だろうね」

「ふーん。俺達もだな」

司はクサイセリフを言って、背後から礼太を抱き締める。じゃれあう父と子。

「あんた達さ」

微笑ましく思う里菜。

「よし、写メ撮ろう!」

思えばこれが初めての家族三人写真だったかもしれない。写メの出来としては良くないが、そこに込められた想いは熱かった。

「頼むから、この写真アップするなよ」

恥ずかしがる礼太。

「お前、友達なんかいないだろう」

「いや、いるよー」

「そうなの?まあ、そんな事しないよ」

「そうか」

友達なのか、親子なんかよくわからないような父と子だった。

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星(カケラ) 定食亭定吉 @TeisyokuteiSadakichi

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