巧みな表現で、一気に引き込まれるジェットコースターのような作品!

鳴神さんの作品は以前も読んだことがあったのですが、この「リターン!」は、鳴神さんの表現力と情景描写力に、改めて唸らされます。モニターという画面上に空気をあふれさせることができる、今時まれな作家ではないかと感じました。5月の場面なら5月の空気、6月の場面なら6月の空気。主人公の「輝大」たちが通っている中学校の周りは田園風景なのですが、草いきれや風の匂い、雨上がりの独特の香りや、抜けるような青空とくじら雲を感じさせるような描写が、抜群に優れていると思います。話は「輝大」が生まれる15年も前のとある場面から始まり、「輝大」がその時体験していることを切り取った形で、進んでいきます。「輝大」の友達の「頼人」、「心愛」とのかけあいも面白く、テンポも良いので、章末にツッコミが入っていたりすると、それまで緊張感を持って読んでいたとしても、程よく脱力できるのが惹きつけられる要因なのではないかと、感じています。起承転結のつけ方が上手く、音楽用語で言う「ブリッジ」の役目をする一話をはさむ方法で、次に繋ぐ期待感を倍増させます。また、一章をどこで切り上げるかというボリュームやタイミングも計算されていて、この上手さにも唸ってしまいます。
惜しまれる点は、どんどん引き込まれて読んでいる時にポツンと出てくる、ほんの少しの誤字や表記の揺れです。先に進むテンポとリズムが崩されてしまうので、少々惜しいですが、それも補って余りある作品だと思います。