研究者と験体として出会ったふたり。ただ目の前に「ある」験体を扱うことに長けていたから、その験体を担当することになった「せんせ」と、験体である「イーリヤ」。異国から来たからか、舌足らずな話し方が余計に透明感を放つ「イーリヤ」と、「イーリヤ」の透明な純粋さに心を揺さぶられる「せんせ」……。その手に入ると、その瞬間に手に入ると思ったものは、手をすり抜けてこぼれ落ちてしまった。それは、「イーリヤ」の思いだったのか、「せんせ」の願いだったのか。比較的、淡々と流れていく話の中で、切なさだけが雪のようにしんしんと降り積もっていく。ふたりの「生」が重なったのは、この美しくて儚い点のような時間だけだった。あとは、ただ、ひとり。