リターン!
シメサバ
プロローグ
『残念~今日の星座占い最下位なのは蟹座です。突然のハプニングに見舞われてしまうかも! 公衆電話に気を付けて! ラッキーアイテムはぁ~、充電器でぇ~っす!』
これは今朝ニュース番組「モーニングタイム」内で放送された星座占いの結果なのだが、それを鼻で笑い飛ばした俺を殴り飛ばしてやりたい。
クリスマス・イブの今日、俺は同僚に無理を言って少しばかり早く仕事を切り上げ、清美との待ち合わせ場所である駅前にやってきた。しかし、待ち合わせの時間を過ぎても清美はやって来ず、連絡を取ろうとしようにも携帯の充電は切れたまま。仕方なしに公衆電話に入ろうとした瞬間トラックに撥ねられて全身殴打。ハプニングどころじゃない。
「意識ありますか!? 自分の名前はわかりますか!?」
「輸血の用意してください! すぐに手術の準備を!」
特に綺麗でも若くもない看護師たちはひどくうるさくて騒がしくて思わず抗議をしたくなるのだが、ストレッチャーに乗せられてゴロゴロ病院の廊下を移動しているらしい俺は顔面を血塗れにしたまま天井についている染みを数えることしかできない。時折看護師の誰かが俺の体のどこかを触って「ここはどうですか?」とか「ここは痛みますか?」とか聞いてくるが、まるでボーリングのピンのようにしてトラックにフっ飛ばされた俺にはよくわからない。痛いような気もするし全く痛みがないような気もする。それどころか痒いような擽ったいような、痛みとは全く別の感覚さえある気がする。もしかして俺は怪我なんてしていないんじゃないかと思うけれどだらだらと目に入る血液こそが俺がトラックに撥ねられたという証拠だ。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お母さん、お父さん、お兄ちゃんが、お兄ちゃんが!」
のどかが泣いている。
「先生お願いします!
「浩之は大丈夫ですよね!? 助かりますよね!?」
祈るように叫んでいる父さんと母さんに、俺はちゃんと立ち上がって、俺は大丈夫、生きてるよ、って言いたいんだけど、全身から溢れ出る血液と折れているのであろう骨達がそれを許さない。
医療班の静止を振り切りセーラー服のまま俺にしがみ付いて泣きじゃくるのどかはまるで小さな子供みたいだ。慰めてやりたいけど、俺の腕は二の腕から爪の先まで血塗れで俺の言うことを聞いてくれない
俺からいつまでも離れようとしないのどかを医療班が無理やり引き離して、俺はストレッチャーに乗せられまた運ばれる。
「がんばってください
それは恐らく看護師の誰かの言葉だったと思うのだけれど、俺は俺の意識がだんだん遠くなっていることに気が付く。ああ、死ぬの。死ぬのかな、と思う。今まで占いとかおまじないとかおばけとかそういう非科学的なことって全く信用してなかったけど、やっぱ占いって当たるんだな、と思う。
もし俺が死んだら一体俺の魂は一体どこに行くのだろう。俺が死んだ後の肉体は、一体どこに行ってしまうのだろう。俺がいなくなったとして、俺のいない世界は一体、どのように廻っていくのだろう。
次第に目を開けていることがつらくなり意識すらも曖昧になった俺のことを暗闇が包む。何もない、何の音もない暗い世界だ。ひどく寂しいところではあるが決して恐ろしいわけではなく、海の底のような静けさを持ち、俺のことを落ち着かせる。暫くの間クラゲのように漂っていると、その暗闇の向こうに小さな点を見つけた。それは本当に地上から見る小さな星程度の細やかなもので、次第に膨らみ、大きくなり、爆発する。俺の体と意識はその光と一つになり、溶けた。それはひどく暖かく優しくていい匂いがして、まるで春の日の日差しのようだ。すごく気持ちがよくてずっとそこにいたかったのに、そううまくはいかないらしい。悪戯な誰かが気まぐれに俺を呼んで、頭を撫で手足を引っ張った。俺はここから出るのが嫌でその誰かの手を蹴ったり引っぱたいたりしたのだが、とうとう外の世界に引っ張り出される。久しぶりに見た外の世界の光はとても鮮やかで眩しくてたまらない。隠れるようにして柔らかい何かに顔を埋めると、優しく頭を撫でられ抱き寄せられた。
俺はそこで漸くちゃんと顔を上げて目を開けて、見る。
「お誕生日おめでとう、
目の前に置かれたのは三角形の苺のケーキで、サンタとトナカイが添えられている。蝋燭は三本で、プレートにはチョコレートで『お誕生日おめでとう てるひろ』と書かれている。俺を抱きしめてにこにこしているのは、まだ若い、二十代前半くらいの女の人。
「……う?」
幼児用のフォークとスプーンを両手に持ったまま、俺は疑問符を浮かべるしかなかったのだ。
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