第7話【絶対悪】 罪の力の試運転(前編)

 アルベール邸から僅か数百メートル先にある、父が所有する森。

 木々に囲まれた森の中を、空を切るように走る。


 さすが敏捷に振り込まれた身体だ。

 流石に自動車ほど速くないけど原付程度の速さ、30キロ近くは出てるんじゃないか?


 敏捷の高い体はバランス感覚にも優れるとは本当のことのようで、木々を避けながら足場の悪い地面を軽々と駆ける。


 スキル【絶対悪】の試運転。


 とりあえず何か動物でも見つけて、スキルを使って狩るか。



 異能 【絶対悪】


 罪を力として行使する異能。


 簡単に説明すると、前世の犯罪を元にした能力を扱えるスキルらしい。


 使用出来る罪は様々で、【殺人罪】【傷害罪】【窃盗罪】などのよく聞く犯罪から、【賭博罪】【信書開封罪】【激発物起爆罪】などあまり耳にしない犯罪まで様々だ(俺が情報番組を見ないから知らないだけかもしれなけどな)。


 一度に行使できる罪は二つまで。


 制限のある罪や、使い道あるか分からん罪まである。


 その中でも使えそうな罪、主に戦闘で使えるものを使ってみることにする。

 魔法や剣の学校に行くんだ、隠れて使うことだってあるだろうしな。



 しばらく森を走り回っていると、開けた場所に出た。


 そこには二匹の大きな鹿が草を食んでいた。


 相手が草食動物なら心配ないだろうな。

 角でどつかれたり、後ろ足で蹴られたら痛そうだけど......痛いで済むように気をつけよう。


 ただこのまま俺が凸ってもただ逃げられるだけかもしれない。

 襲いに来てもらわないと面白みがない。せっかくだから実戦っぽく行きたいじゃないか。


 そこで使用しますは罪【侮辱罪】。対象の増悪ヘイトを俺に集める罪だ。

 まぁ要するにだ。これを使うと対象を怒らせることが出来ます♪ 思考できる相手にも煽り文句とセットにすることで、簡単に怒らせれますよ。


 早速実行。


 俺の口の端が熱くなる。なんだ?


 それを確認する前に、俺の【侮辱罪】の効果にあてられた鹿さん二匹が俺目掛けて突っ走ってきた。


 凄いな、視界に俺入って無かったろうに真っ直ぐ来たぞ。


 俺は持ち前の敏捷力で鹿とすれ違うように躱す。


 さて、まず一匹はこの罪でッ。


【殺人罪】行使。


 すると今度は俺の頭の周りを円を描くように熱を持ち始めた。


武器の扱い、今目の前にいる生物の殺し方などを考えさせられ、その思考能力が強化される。


 俺は腰に下げた片手剣を抜く。


 再び突進してくる一匹の鹿。

 俺は屈んで角を躱し、走り抜けようとするそいつの足を斬りつける。


 左二本足に傷を負った鹿は、勢いよく倒れる。

 立ち上がろうと藻掻くそいつの首に剣を突き立て、捻る。


 鹿は一度二度痙攣して、そのまま動かなくなった。

 生き物を殺した、これが初めてそう実感した出来事だった




【殺人罪】


 名称とは異なり、人や動物問わずその生き物の殺し方、

 及び

 剣や斧などの武器だけでなく、自身が持つあらゆる物を使った一番効率的な殺し方を考える事ができる。

 例えば木の枝を使った効率的な殺し方を考えれる、などだ。


 ただし、あくまで思考の補助程度の力でこちらはそこまで使えるものでは無い。

 使い所は思考が麻痺した時ぐらいだろうか。


 更に加えると....使ってみて感じたことだが、この力を使ってる間は殺すことに対する躊躇いがほとんど無くなる。

 多少は残るが....少し危険だな。訓練して制御しないと。


 流石にこのままでは簡単には使えない。

 特に殺人の力をこのまま学園で使うだなんて危険すぎる。




【殺人罪】を一度解除する。


 僅かな罪悪感を感じるが、ここはそれが日常茶飯事になる世界だと自分に言い聞かせると、不思議と罪悪感消え、変わりに僅か高揚感が生まれた。


 これが俺の初めての獲物だと、実感した出来事に変わる。


 そんな余韻は一秒にも満たない時間だっただろうが、もう一匹が動くには充分な時間だろう。


 俺が振り向くと、俺を警戒しじわじわ後退するもう一匹の鹿の姿があった。


 俺の視線に気がついたそいつは背を向け、逃げようとする。


 逃げ出した鹿を追いかけ、剣を振るう。

 だがこのまま振るえば、木の幹が剣撃を阻んでしまう。


 そこで【傷害罪】を行使。


 今度は手の甲が熱を持ち始め、手の甲と刀身が淡く輝き出す。


 振るわれた俺の剣はそのまま木の幹を....すり抜け、鹿の首を切断する。


 倒れた鹿を見やれば、切断したであろう首は繋がったまま....しかし大きな切り傷ができ、血が流れている。



 これが【傷害罪】の罪の力。


 対象のあらゆる防御をすり抜け、必ず傷を負わせる力だ。


 それが鉄の鎧だろうが、魔法の石でできた甲殻だろうが、魔法の結界だろうが無視して攻撃できる。


 ただし制限が三つある。


 一つ....無視できる範囲は傷を負わせる武器、または手段のみ。

 それが剣ならその刃まで、素手なら肩まで防御をすり抜ける....と言った感じで、自分の認識が基準で無視できる物や長さが変わる。


 二つ....あくまで傷を負わせる目的でのみ発動可能。

 これも自分の認識の仕方が基準になっており、傷をつける事以外の目的で【傷害罪】を行使しても、効果は現れない。


 三つ....行使中は殺すことが出来ない。

 例え頭を斧で叩きわろうとも、槍で心臓を突き刺そうとも、剣で首を飛ばそうとも、発動中は事象が改変され、全てが傷になる。

 叩き割った頭は頭蓋に至らない程度の大きな傷に、心臓に至る刺し傷は深い刺し傷に、飛ばされた首は大きな傷に改変される。

 しかし殺せないだけで、放ておけば死に至る傷ぐらいはおわせる事が出来る。


【傷害罪】は制限が多いが、それを入れても強力な力だ。

 それに学園で模擬線があった場合もこっそり使うことも出来そうだしな。


 輝き、熱を持つ手の甲と剣に目をやる。

 そこには何らかの紋章が輝いていた。

 どうやら罪の発動中は、紋章が描かれる様だ。【絶対悪】を使う時は見られないよう気をつけた方がいいかもしれないな。



 最後に鹿の首の傷をを見て、手を下すまではないと判断してその場を離れることにした。

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異世界へ詫び転生した俺の学園生活〜スキル【絶対悪】で盗ったり覗いたり闘ったりします〜 劇薬 @Gekiyaku

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