幸せアレルギーのキミへ

夜煎炉

Ⅰ. 甘さ控えめ桜のクッキー

「お前等、何食ってんだ?」


 昼休み。

 思い思いの昼食は終えただろうに、まだ輪になって何かを食べている様子の友人達を怪訝けげんに思いつつ、つばさは問い掛ける。

 まったく。いくら「男子高校生は食べ盛り!」と言っても、あれだけの昼食を食べた後でよく入るものだと、半ば感心さえしながら。

 しかしそうした翼の内心など関係ないと言わんばかりに、友人の1人は「よくぞ聞いてくれました!」とでも言わんばかり堂々たる振る舞いで“それ”を翼に示した。

 見たところ、普通の袋に入った、普通のクッキーである。

 1口サイズで花の形。淡いピンク色をしたそのクッキーは洒落ているものの、どちらかと言えば女子が好みそうな物で、男子高生が輪になってワイワイやる物には見えない。最近では“スイーツ男子”もいるが、翼の友人達は間違いなくそうしたタイプではないだろう。


「……クッキー?」


 拍子抜けしつつ見たままを呟けば、大袈裟にクッキーを示した友人が「チッチッチッチ」なんてわざとらしく言いながら立てた人差し指を振る。

 態度もどことなく誇らしげだ。


「これはただのクッキーじゃあないんだぜ!の季節限定で購買に売り出されるクッキー!人気ナンバーワンで、売り切れ必死の幻の1品!!」

「桜の塩っけが利いていて美味しいんだよねー」

「それを!今回!ようやく!手に入れられたってワケだ!!」


 そう力説されても翼には普通のクッキーとしか映らず、さして興味も湧かない。かと言って「1つどうだ?」と袋を差し出されて断る程、冷たい性分もしておらず。

 それでは遠慮なくと1つを摘まみ、口へ運ぶ。

 途端口内に広がった猛烈な甘味に吐き気さえ覚え、咄嗟に口元を覆った。とは言え、このまま吐き出してしまうワケにはいかない。

 幸い「男子高生にしては少ない」と常々指摘される、先程食べたばかりの昼食が逆流する事もなく。

 翼は何とか吐き気の要因たるクッキーを嚥下し、友人達を睨み付けた。

 今まさに吐き気に耐えたばかりであるから両目とも潤んでいるものの、威力には欠かないらしい。目の前で友人達が思わずという様に震えあがるも、無視である。

 何せ彼等は翼の苦手な物をよく知っているのだから。


「くっっっっそ甘いじゃねぇか!どういうつもりだ?嫌がらせかよ?」

「え?え?甘さ控えめだし、桜の塩気も利いてて甘い物が苦手でも食える甘味だろ?」

「どこが!」

「……オレ、聞いた事あるっす」


 まだ文句を言い足りない翼を遮り、友人の1人が声を上げた。自然そっち……よるの方を睨んでしまうのも仕方がないだろう。

 しかし夜は臆した様子もなく、時折何かを思い出すように考えながら言葉を続ける。


「幸せアレルギーっていって、幸せに慣れてない人は甘い物が苦手なんだって。アンタ、もしかしてそれなのかも」


 人の内側にズカズカと。

 しかし翼のそんな反論さえ許さないと言うように、或いは見越してでもいるかの様に。翼の返事を待たず、夜は言葉を続けた。

 それも、やけに明るい笑顔を伴って。


「だからオレがアンタを幸せにするっすよ!」

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