16「推され押されて、ここに来た」(前) 3/25

お題『肝試し・夜・お墓』

タイトル「推され押されて、ここに来た」

2075文字・62分


○墓地(深夜)

 暗い墓地に1人の少女、小宮山夏希(18)が立っている。

 手には懐中電灯、半袖にショートパンツ姿で不安そうな表情。

夏希「……」

 ポケットから取り出したものは地図。

 一箇所にだけ、赤いマーカーで印がつけられている。

 夏希、地図を見つめた後、再びポケットに地図をしまう

夏希「……よし」

 夏希、歩き始める。

 夏希が画面から消えると、背後に髪の長い女が映る。

  (タイトル表示)


○教室・前

 生徒がたくさんいる廊下。

 窓の外には木に止まっている蝉の姿。

 ドアの上部には「3ーB」の文字。

夏希「……肝試し?」


○同・中

 窓際の席に座っている夏希の目の前に2人の少女。

 ボブカットの少女、横山葵(17)と、ポニーテールの少女、桜井裕子(18)だ。

裕子「そ!クラスの皆でやろうってなってね〜」

 夏希、怪訝な表情をしながら、窓の外を見つめている。

 その表情を見て、2人が顔を見合わせて苦笑い。

葵「もちろん行事とかじゃないし、小宮山さんが嫌なら全然構わないんだけど……」

 葵、喋りながら廊下側に視線をやる。

 葵の視線の先には、坊主頭の少年、向井一心(17)が、葵に対して期待の目を向けている。

葵「……」

 葵、向井に対し「ダメそう」とアイコンタクトを送る。

 うなだれる向井。

裕子「でっ、でも!来てくれたら嬉しいなぁ〜なんて……」

 裕子が葵をフォローするように明るく話す。

夏希「どうして?私と殆ど話したことのない貴方達が、どうして嬉しいわけ?」

裕子「あはは……。それも、そうだねぇ……」

 裕子、表情を引きつらせて首をすくめる。

 夏希は相変わらず窓を見つめて、不機嫌そうな顔。

葵「あはは……。嫌なら大丈夫〜。ごめんねぇ……」

 葵と裕子、表情を強張らせながら、向井の方へ歩いていく。

夏希「……」

 夏希の視線の先には、1人の少女。

 少女は、かなり暑い時期だというのに、楽しそうに友人達と校庭を走りまわっている。

夏希「……バカみたい」

 夏希、ポツリと呟く。


○校舎・前(夕方)

 夕陽に照らされた校舎。

 夏希が、スクールバックを手にし、イヤホンをつけながら校舎から出てくる。

 ふと横を見ると、先ほど校庭を走っていた少女がジャージ姿で水道の蛇口から水を飲んでいる。

夏希「……」

 夏希、なんとなく少女を見つめる。

 少女のジャージには「フェンシング部」の文字。 

夏希モノローグ(以下Mと表記)「(……体育系だったんだ)」

 少女が蛇口を止める。

少女「ぬっっっる!」

 少女が叫び、夏希が面食らう。

 少女、夏希に気がつく。

少女「あ、小宮山さんだ!」

 少女が笑顔で夏希の方へ駆け寄ってくる。

夏希「え?えぇ……?」

 夏希、思わず半歩下がる。

少女「ごめんごめん!汗くさい?」

 少女がヘラヘラと笑い、夏希が呆れる。

少女「……ていうか、私のこと知らないか!ごめんごめん!」

 少女は、夏希の呆れた表情をものともせずに話し続ける。

少女「私、A組の和久井舞!もしかして知ってたり?」

 少女、ずんずんと夏希に寄っていく。

夏希「いや、知らないって……」

 夏希、呆れた表情を困惑に変えながら、距離を一定に保っている。

舞「えぇ、知らないの!?それは残念だなぁ……」

 舞、その場で立ち止まりうなだれる。

夏希M「なんだ、こいつ……」

少女の声「まーいー!なにしてんの!?そろそろ先生着ちゃうよぉー!」

 体育館のドアが開き、少女が舞に向かって手を振りながら叫ぶ。

舞「おっけぇー!今いくねー!」

 舞が一瞬でもとの態勢に戻り、少女の方へ手を振替しながら大声で叫ぶ。

舞「あ、そうだ!小宮山さんっ!」

 舞、夏希の方へ振り返る。

舞「今日の肝試し!待ってるから!」

夏希「……え?ちょっと━━━」

舞「約束だからねぇぇぇ!」

 舞、叫びながら体育館へ走っていく。

 その場に取り残される夏希。

夏希「えぇ……?」

 夏希、困惑の表情で立ち尽くす。

夏希「……そもそも、何処にだよ」

舞「言い忘れてたっ!」

 舞、いつの間にか夏希の目の前に。

夏希「うわっ!」

 舞、夏希に地図を渡す。手書きで書かれたそれには、汚い字で大まかな場所が記されている。

夏希「……」

 夏希、驚きのあまり声が出ないまま、地図を見つめる。

 地図には、一箇所だけ赤いマーカーで印がつけられている。

舞「この場所には!小宮山さんの!」

夏希「……」

 にじり寄る舞、距離をとる夏希。

舞「大切なものがっ!」

夏希「……大切なもの?」

舞「隠されているのだっ!」

 舞、夏希の鼻先に指を突きつける。

夏希「ちょっと、それ、どういう━━━」

舞「だーかーら!絶対きてねっ!それじゃ!」

 舞、恐ろしい早さで体育館へ走っていく。

 夏希、再びその場に取り残される。

夏希「……はぁ」

 夏希がため息をつく。

 (前編終了)

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