15 「世界の悪意に囲まれて」3/24
拡張版ライトレ お題1つ 120分・3000文字以上
お題『デート』
タイトル「世界の悪意に囲まれて」
3673文字・125分
○???・中
暗い室内で、中島優希(18)がスマートフォンを手にし、椅子に座っている。
指先だけを動かし、画面をスクロールする優馬。
画面の光が優希の顔を照らし出すが、その表情は読めない。
優希モノローグ(以下Mと表示)「あなたはとても優しかった」
優希M「本当に、とてもとても優しくて━━━」
(画面暗転)
優希M「罪悪感で胸が押しつぶされそうになる」
○学校・前
テロップ「3年前」
校門には「栄学園」の印字。
○教室・前
ドアの上部には、「3ーB」の文字。
○同・中
黒板前の壇上に、中島優希(15)と小林保憲(27)が立っている。
小林「今日は、優希の身体についての事を話そうと思う」
優希、俯いている。
小林「えー、優希はこの通り男の格好をしているんだが」
小林、優希の学生服を指し示す。
小林「どうやら心の中は女という事らしい!」
ザワザワと反応する生徒たち。
気色悪そうに優希を見つめる女子生徒。
奇異の目で優希を見つめる者。
友人と顔を見合わせ、嘲笑の表情を浮かべる者。
優希、俯きながらも視線を感じ取り、耳を赤くしている。
小林「静かに!……これは性同一障害という病気なんだ」
小林が大きな声で叫ぶ。
小林「だから、優希は変じゃない!これまでと同じクラスの仲間なんだ!」
小林が拳を握りしめて熱弁するが、生徒のザワつきと嫌な視線は消えない。
優希「……」
○トイレ・前
男子トイレのマーク。
○同・中
優希が、複数の男子生徒に囲まれている。
男子生徒A「脱げよ」
優希「い、いや……」
男子生徒B「「い、いや……」だってよ!気色悪りぃ!」
男子生徒C「裏声なんか使って、女のつもりかよ!」
優希「……」
優希が俯く。
拳をぎゅっと握りしめ、震わせている。
男子生徒A「俺らが、お前の性別がどっちか確かめてやるって言ってんだよ」
男子生徒A、身をかがめ、優希に顔を寄せる。
男子生徒A「今なら、脱ぐのを待ってやるよ。でもあと15秒したら、強制的に脱がせる」
優希が怯え、震える手で学生服のボタンを外していく。
男子生徒B「おー、優希ちゃんもやればできんじゃん!あと10秒だけど」
優希、シャツを脱ぐと下には小さなスポブラ。
男子生徒C「おま、まじで!?なんで着てんだよ!」
男子生徒が大声で笑い始める。
優希が羞恥に悶え、泣き出す。
男子生徒A「泣いてる暇なんてねぇぞ。あと5秒だ」
優希、顔を真っ赤にしてその場に泣き崩れる。
男子生徒達が顔を見合わせたあと、徐々にその口角が上がっていく。
男子生徒A「やれ」
(画面暗転)
優希の悲鳴が響き渡る。
○教室・中
テロップ「1日後」
小林が壇上で腕を組み、生徒達を睨んでいる。
優希の席だけは誰も座っていない。
小林「先生は悲しいぞ」
小林「昨日、優希を集団で襲って、裸の写真をばら撒いたんだってな!」
小林の声が虚しく教室に響く。
小林「これは、明らかなイジメだ!そして、そのせいで優希は学校を休んでしまった」
小林、優希の席を指差す。
小林「俺のクラスでイジメなどあってはならない!不登校もだ!」
小林「なんとしてでも優希を連れてきて、授業を受けさせよう!」
小林、咳払いをする。
小林「そこでだ……」
○中島家・前
玄関が開き、中島靖子(42)が重い足取りで出てくる。
その表情は暗く、眉間には皺が寄っている。
ふと郵便受けを見ると、投函物で一杯になっている。
靖子「……何かしら」
靖子が郵便受けを開くと、大量の封筒が雪崩のように地面に落ちる。
靖子「……!」
その封筒は全て「3ーB」と書かれている。
○コンビニ・店内
テロップ「3年後」
コンビニ制服を着た優希(18)が楽しそうな表情でゴミをまとめている。
優希は、長い髪を団子にして纏めている。
その後ろには山崎洋二(35)が椅子に座り、パソコン画面を見つめたままキーボードを叩いている。
洋二「(画面から目を離さずに)優希ちゃんは良いねぇ、楽しそうで」
優希「えへへ……そうですかぁ?」
優希、浮ついた声で返事をする。
その声は高く、女性のものにしか聞こえない。
洋二「うっわ、すっごく楽しそうな声なんか出しちゃって。何、デートとか?」
優希、顔を赤くして手をぶんぶんと振る。
優希「違いますっ!ご飯食べに行くだけですから!」
洋二、画面から目を離して驚きで目を丸くして優希を見つめる。
優希「……な、なんです?」
優希、洋二の食いつきに戸惑う。
洋二「どっちだ?」
優希「……へ?」
洋二「相手は、男と女、どっちだ?」
優希「お、男です……」
洋二、優希の返答を聞いて腕を組み、表情を固くする。
優希「……店長」
洋二「知ってるのか?……その、相手の男は」
優希、力なく首を振った後に俯く。その表情は暗い。
洋二「……そうか」
2人とも黙ってしまう。
客の声「あのー、すみませーん」
表のレジから客の声が聞こえ、洋二が急いで席を立ち、レジの方へ。
優希「……」
優希は、再びゴミをまとめるが表情は暗いまま。
○コンビニ・外
コンビニから出てくる優希。
制服から青いワンピースに着替えているが、表情は暗いまま。
肩は少し張っているがその身体つきは女性とほとんど変わらない程に華奢。
優希「……」
優希が歩いてゆく。
○渋谷駅・ハチ公前(夕方)
ハチ公付近で優希が立っている。
(インサート 洋二「知ってるのか?……その、相手の男は?」)
優希、ため息をつき、目を閉じる。
男「ねぇ、おねーさん、待ち合わせ?」
優希「……」
優希が目を開けると、知らない男が優希を見つめている。
優希「……へ?その、私ですか?」
男「そうだけど?」
優希、表情が明るくなる。
優希「あの!私のこと、「おねーさん」って呼びましたよね!?」
優希、興奮した様子で男に詰め寄る。
男「だからそうだって……」
優希「私、ちゃんと女に見えてるんですねっ!やった!」
男、不思議そうに優希を見つめている。
優希、その表情を見て咳払いし、冷静を装いながら。
優希「……ごめんなさい。私……いや、おねぇさん少し忙しいから、ごめんなさいね?」
優希、男の先に待ち合わせの相手を見つけて嬉しそうに手を振り、走って行く。
男「なんだアイツ……?」
○レストラン・中(夜)
落ち着いた雰囲気のレストランに、優希が座る。
目の前には、待ち合わせ相手の沢田修(20)が座っている。
沢田「どうかな、このレストラン」
優希「すっごく素敵ですっ!私、こういう落ち着いたレストランってあんまり来た事ないから嬉しいです」
沢田、微笑む。
沢田「よかった、喜んで貰えたなら嬉しいよ」
優希も微笑む。
ウェイターが席にやって来て、お冷とメニューをテーブルに置く。
ウェイター「失礼し━━━」
ウェイター、その場から去ろうとするが、優希の顔を見て動きを止める。
優希「?」
優希とウェイターが見つめ合う。
優希「……!」
優希、それまでの楽しそうな表情がどんどん強張っていく。
その表情を見て、ウェイターは口角をあげ、歪んだ表情に変わっていく。
ウェイター「お前、中島優希だろ!驚いたな、本当に女みたいじゃねぇか」
(インサート、男子生徒Aの顔)
沢田「……?女みたいって、どういう事ですか?」
沢田、やや表情を強張らせながら優希に尋ねる。
優希、その表情を見て席を立つ。
優希「ご、ごめんなさい……!」
優希、レストランから走り去る。
その場に取り残される男性に、ウェイターがニヤニヤと笑みを浮かべながら耳打ちする。
○暗い部屋・中
暗い室内で、優希がスマートフォンを手にし、椅子に座っている。
指先だけを動かし、画面をスクロールする優馬。
画面には、沢田からのメッセージが表示されている。
沢田の声(メッセージを読み上げる)「中島さん、僕は少し混乱しています」
画面の光が優希の顔を照らし出すが、その表情は読めない。
沢田の声「とにかく、もう一度会って話がしたい」
優希モノローグ(以下Mと表示)「あなたはとても優しかった」
沢田の声「あなたの口から、本当のことを聞きたい」
優希M「こんな風に、騙されていたことを知っても怒り出さない、優しい人」
優希M「でも、その優しさが怖い。罪悪感で胸が押しつぶされそうになる」
優希M「私は、あなたに、これ以上失望されたくない」
優希、椅子から立ち上がる。
優希「ごめん、沢田先輩。私はこれ以上傷つきたくないんです……」
優希の指が、沢田の連絡先を削除する。
優希が嗚咽を漏らし、その場に泣き崩れる。
(終)
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