14 「吹雪の中で」 3/22

お題『桜・卒業・手紙』

タイトル「吹雪の中で」

2018文字・75分。


○ボロアパート・前

 今にも倒壊しそうなアパート。

 小宮山 輔(23)が、アパートに付けられた鉄製の階段を登っていく。


○202号室・前

 輔が二階に到着し、奥(カメラ側)に向かって歩いてくる。

 「202」と書かれた部屋の前で立ち止まる。

 ポストには、乱雑に詰め込まれた書類が多数。

輔「……」

 輔、詰め込まれた請求書や広告を無言で見つめる。

 輔、その中に小さな封筒が入っていることに気づく。

輔「なんだ、これ?」

 封筒には、「1年後の小宮山 輔へ 小宮山 輔より」と書かれている。

 輔、その封筒だけを手に取って鍵を差し込み、ドアを開ける。


○同・中

 ドアが開き、輔が部屋の中へ。

 そのまま歩いていき、部屋の電気のスイッチを押すが、電気はつかない。

輔「……ついに止まったか」

 輔、ため息をつき、カーテンの方へ胡座をかいて座る。

 カーテンの側は外の光が差し込んでおり、カーテンを開けなくても明るい。

 輔、封筒から2枚の便箋を取り出し、読み始める。


○洸夜大学・前(モノクロ)

 「洸夜大学」の文字が校門に刻印されている。

輔モノローグ(以下、Mと表記)「背景、1年後の小宮山 輔へ」

輔M「2018年、3月22日の小宮山 輔、つまり僕のことですが」

輔M「僕は今、卒業旅行先で1年後の僕に向けて手紙を書いています」


○旅館・中(モノクロ)

 旅館のロビーで、輔が便箋にボールペンで文字を書いている。

輔M「1年後の僕ですから、本来であれば説明する必要もありませんが」

輔M「僕は今、将来に対する不安を感じています」

輔M「自分の才能を信じて、頂いた内定を辞退し脚本家を目指しましたが」

輔M「その判断が本当に正しいものだったか、何度も何度も自問自答を繰り返しています」


○202・中

 カーテンの側で、輔が手紙を読んでいる。

輔M「1年後の僕は、この問いに対し、自信を持って答えることができるでしょうか?」

輔M「1年経過しようが、優柔不断な僕のことですから、答えることはできないと思います」

 輔、小さく微笑む。

輔M「ですが、たとえ言葉にすることはできなくても」

輔M「内に秘めた言語化不可能なこの情熱は失わないでほしいと」

輔M「現在の僕はそう願っています」

 輔、便箋を捲り、2枚目を読み始める。


○旅館のロビー・中(モノクロ)

 輔がロビーで手紙を書いている。

 ロビーの大きなガラスからは、外にちらちらと降る雪が見える。

輔M「そういえば現在、旅行先では雪が降っています」


○駅前(モノクロ)

 猛吹雪━━━

 「余市駅」と書かれた駅舎の前で、男性3人(輔と2人)が顔を見合わせている。

輔M「なんせ北海道ですから、自分の身長よりも高く雪が積もっており」

輔M「一昨日に至っては、吹雪でほんの数メートル先すら見えませんでした」

 輔たちが吹雪の中、歩き始める。

輔M「自分の将来のように、先の見えない吹雪の中で」

輔M「僕は必死に目的地へ歩いていました」

輔M「足元は悪く、踏ん張りを効かせなければ滑って転びそうでした」

輔M「前方の視界は吹雪で閉ざされていました」

輔M「ようやく目的地に着いた時、僕は体力を消耗していました」

輔M「途中で、何度もタクシーを拾おうと思いましたし」

輔M「歩みを進めれば進めるほど、身体の冷えは増していきました」

輔M「ですが、目的地に到着して、食事を済ませて外に出てみると」


○建物・前(モノクロ)

 快晴━━━(青空だけがカラー)

 建物から、輔たちが出てくる。

 その視線の先に吹雪はなく、駅舎がすぐ近くにある。

輔M「先ほどの吹雪が嘘のような快晴が」

輔M「意外なほど近くに存在していた駅舎を照らしていたのです」

 輔、駅舎を見つめて微笑む。

輔M「1年後の僕が、未だ吹雪の中に居るかはわかりません」

輔M「ですが、どうか諦めないでほしい」

輔M「必死に踠き続け、吹雪が去り、狭い視野が開けば」

輔M「案外、目的地はすぐ近くにあるのかもしれませんから」


○202・中

 輔、便箋を手元に置き、僅かに微笑む。

 インサート、電気を止められたために明かりをつけられなかった時の映像。

  (インサート終了)

輔「まだ吹雪の中だよ……」

 その時、着信音が鳴り響く。

 輔、携帯を取り出すと緊張した表情に変わる。そのまま電話に出る。

輔「はい、小宮山です!」

 輔、ウロウロとカーテンの前を歩く。

輔「……え!本当ですか!」

 輔、驚きの声をあげると同時に躓き、カーテンが外れて落ちる。

 カーテンの外には、満開の桜。

 輔、思わず口を開いて桜を見つめる。

 電話から相手の声が聞こえる。

 輔、微笑む。

輔「……はい!今から向かいます!よろしくお願いします!」

 輔、カーテンを直すことなくドアの方へ走っていく。

 (終)

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