13 『無題』3/21
お題『豹変・きっかけ・出来事』
タイトル「無題」
1531文字・86分
○石水公園・前
豪雨━━━
車両進行禁止用のポールがある。
その横に、「石水公園」と印字されたプレート。
○同・遊具・前
古いピンク色の大きな遊具がある。
遊具は中が空洞になっており、人が入って遊べる作りになっている。
○同・同・中
遊具の中に、びしょ濡れの女と同じく雨に濡れた男が1人。
男が、制服姿でポニーテールの小清水葵(15)に馬乗りになっている。
葵が激しく暴れるが、男は葵の手首を掴んだまま笑みを浮かべる。
葵「どうしてッ━━━」
男、葵の唇に人差し指を当て、言葉を遮る。
男「━━━黙って、やらせろ」
葵、男の言葉に恐怖を隠せず、視線を泳がせる。
男、葵の制服を乱暴に掴む。
葵「い……いや」
(画面暗転)
衣服が破れる音がし、葵のすすり泣きが響く。
○石見公園・中
テロップ「2年後」
曇り━━━。
白い半袖のブラウスを着て、髪を長く伸ばした葵が、遊具の前に立っている。
その瞳は憂いを帯びており、表情は暗い。
男の声「葵、こんな所に居たのか!」
葵、声の方向へ振り向く。
そこには、背の高い男性、小清水裕也(22)が表情を強張らせて立っている。
葵「……にいちゃん」
葵、裕也を見つめているが表情は変わらず。
裕也「……どうして、ここに来たんだ」
葵、俯く。
裕也、膝をかがめ、葵の目線で穏やかに話しかける。
裕也「……言いたくないなら、無理に言うな」
葵、涙を浮かべながら同じ目線にある裕也の顔を見つめる。
裕也「何か飲むか?買ってきてやるよ」
裕也、自動販売機を指差して微笑む。
葵「……アイスココア」
葵、小さな声で呟く。
裕也「わかった。帰りながら飲もう」
葵、遊具近くのベンチを見つめる。
葵「……ここがいい」
裕也、一瞬眉を潜めるが、少ししてから微笑む。
裕也「わかった、座って待っててな」
○同・中・ベンチ
ベンチに腰掛けている葵。
裕也、葵の元へゆったりと歩いてくる。
裕也「はいよ」
裕也、ミルクココアを葵に差し出す。
葵「……ありがと」
裕也、葵がココアを受け取ったのを見つめ、隣に座る。
裕也「……」
葵「……」
裕也、小脇に挟んだアイスコーヒーを開けて飲む。
遠くで蝉の鳴き声が聞こえる。
裕也「……」
葵「……小さい頃」
裕也、突然喋り始めた葵を見つめる。
葵「……よく、ここに来てた」
裕也「……そうだな」
葵「……」
葵、無言でアイスココアの缶のプルタブを起こす。
裕也「……」
裕也、何も言わずに前方を見つめている。
蝉の鳴き声が聞こえる。
葵「……いい思い出だから、覚えてるの」
葵、ココアを飲む。
裕也「……」
裕也、悲痛な表情を浮かべた後に俯く。
葵「……」
再び沈黙。
蝉の鳴き声が響き渡る。
裕也「……やっぱり、帰ろう」
裕也、葵を見ずに呟く。
葵「……いい、ここに居たい」
裕也「俺が居たくないんだ!」
葵、突然大声をあげた裕也を見つめる。
裕也「……辛いんだ、何もできなかった事が」
裕也、涙を零しながら呟く。
葵「……」
裕也「……憎いんだ、明るかったお前を変えた男が」
葵、何も言わずに裕也を見つめる。
裕也「……ごめん」
裕也、葵の視線から目をそらす。
葵「……わたしは」
裕也、俯いたまま顔をあげない。
葵「……ここに、いたい」
裕也「どうして━━━」
葵、裕也の言葉を遮るように、人差し指を裕也の唇に軽く当てる。
葵「ここには、いい思い出だってあるから……。それに」
葵、微笑む。
葵「……変わってしまったわたしも、わたしだから」
(終)
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