Episode34 The End of Loneliness -孤独の終焉-
Die Blumelein sie schlafen
schon langst im Mondenschein,
sie nicken mit den Kopfen
auf ihren Stengelein.
Es ruttelt sich der Blutenbaum,
es sauselt wie im Traum:
Schlafe, schlafe, schlaf du, mein Kindelein!
“月の明かりの下 花も眠る
花びらを垂らし
夢の中でざわめき揺れる
眠れ 眠れ 我が子”
歌が聞こえる。
美しく、物静かな歌声だ。
それは子守唄。
愛しき子を、安らかな眠りへと導く夢の誘い。
自らを包む心地よいまどろみの中、メアリー(
そこは見慣れた
そして、いつものように自分を包む円筒型のシリンダーと調整液。
それがわずかに視界を歪ませる。
目の前には一人の男がいた。
後ろに撫でつけた銀髪に鷲鼻。
ワインレッドの
男…「狂乱のアメルハウザー」こと、ディートハルト=アメルハウザーは、シリンダー越しにいつもより眉間に深い
「…我、及ばず…か」
苦悩に満ちたその独白に、何故だかメアリーの胸を閉めつけた。
「
その言葉がメアリーの胸を
同時に疑問が生まれた。
マスターは、何を言っている…?
何が
自分ではないことは確かだ。
何せ、自分はマスターが持つその
まず、この身にはあらゆる叡智が宿る。
他とは違う高位の“
それに「
この世界に物理・霊的干渉を行うことが可能な状態で、自分の身を位相空間に転移させる。
この状態になれば、例え神や悪魔でも彼女を目視・察知できない。
平たく言えば“
だから、違う。
失敗作とは違うのだ。
違う…はずだ。
…お願いです、マスター。
「違う」と言ってください。
しかし、アメルハウザーはシリンダーに背を向けた。
その視線の先には、一人の少女がいた。
小柄で、前髪が長く目が隠れるほどだ。
紫がかった黒髪を編み上げ、古風なメイド服を着たその少女は、行儀よく両手を前で組み、静かにたたずんでいる。
アメルハウザーは少女に近付くと、その肩に手を置いた。
「…
「…」
アメルハウザーの言葉に、メアリーの目が大きく見開かれる。
驚きと絶望に
少女は無言のままだった。
「『
痛ましげな視線を少女に向けるアメルハウザー。
それは、メアリーの記憶の中にあるものより、幾分老けこんだ横顔だった。
「許せ、フランチェスカ。
いま、マスターは何と言った…?
「伴侶」?
自分が…?
自分はこの少女の…ただそれだけのために造られたというのか…?
視界が
メアリーは調整液の中で、声無き慟哭を漏らした。
だが、それはわずかな気泡となって消えていく。
同時に湧いた感情もあった。
それはメアリーにとっては初めて得た感情。
憎しみだった。
「ご自身を責めないでください、マスター」
そこでフランチェスカが初めて声を発する。
ひどく無機質で、感情が欠落した声だった。
「今までもこれからも、ずっと
メアリーが再び目を見開く。
フランチェスカの目元は見えない。
が、そこにメアリーはわずかな悲しみの色を見た気がした。
「…間もなく、
アメルハウザーがフランチェスカの肩から手を離す。
「せめてもの詫びというわけではないが、
そう言うと、アメルハウザーは部屋を出て行こうとした。
「…私は“
去り際に、アメルハウザーが独り言のように呟く
「じきに、かの禁書を盗み取ったことは『
フランチェスカはその背を目で追った。
「この
「あの好奇心旺盛な弟子にでもくれてやるさ。ああ、すまんが、行き先は聞くな」
そこで、アメルハウザーはフランチェスカを見やった。
「
「…」
「さらばだ、“
Die Vogelein sie sangen
so sus im Sonnenschein,
sie sind zur Ruh gegangen
in ihre Nestchen klein.
Das Heimchen in dem Ahrengrund,
es tut allein sich kund:
Schlafe, schlafe, schlaf du, mein Kindelein!
“陽の光の中
羽根を休める小さな巣の中
落ち穂の中で一人鳴くコオロギ
眠れ 眠れ 我が子”
そして。
メアリーは静かに目を閉じた。
歌声に誘われ、夢見る幼子のように。
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メアリーが目を開くと、そこには自分を覗き込むように目を閉じているフランチェスカの顔があった。
その口からは、先程聞いた子守唄の余韻が漏れている。
ドイツの音楽家ブラームス作曲の「眠りの精」だ。
そして、メアリーは自分がフランチェスカに膝枕されていることにようやく気付いた。
フランチェスカの目が開かれる。
紫と翠。
その長い前髪のせいで気付かなかったが、自分の蒼赤の
「…今のこの状況を説明してもらえるかしら?」
勤めて冷静を装い、メアリーが尋ねると、フランチェスカは静かに応えた。
「貴女が昏倒状態に陥ったので、
「そう。ご説明ありがとう。で、これから私はどうなるのかしら…?」
「フランの
声の方を見ると、アルカーナ(
「それくらいは、勝者の権利として求めても罰は当たらないと思うが、どうかな?」
「拒否権は…なさそうね。そんなことしたら、このまま首を引っこ抜かれそうだもの」
諦め顔のまま身を起こすメアリーに、アルカーナは微笑した。
「話が早くて助かるよ…だ、そうだ
「ふわ~、助かるよ~」
そう言いながら、
「『
「仕方ないわね」
そう言いながら、メアリーは立ち上がった。
そして、チラリとフランチェスカを見やる。
「…何故、私を壊さなかったの?」
「…」
「悪いけど、私は本気で貴女を殺すつもりだったわよ?」
その言葉に、フランチェスカは小首を傾げた。
「分かりません」
「はあっ!?」
思わず声を上げるメアリー。
それにフランチェスカは続けた。
「ただ…貴女を
その言葉に、メアリーは驚きの表情を浮かべた。
「貴女…まさか、記憶が…?」
「?」
しかし、フランチェスカは不思議そうにしている。
そんな様子に、メアリーはやや苦笑した。
(そんなわけないか…偶然ね、多分)
心の中でそう呟くと、メアリーはフランチェスカに手を差し出した。
「ほら、立ちなさいよ。じゃないと
頷きつつ、メアリーの手におずおずと触れるフランチェスカ。
その様子を見ていたアルカーナは、あることに気付き、ふと微笑した。
(いい笑顔だよ、フラン)
手を握り合った二人の姉妹に、アルカーナは薔薇を手にしつつ、そっと祝福したのだった。
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その後。
「…で、これが土産ってわけか」
「
その眼の前には、アルカーナとフランチェスカ、そして膨れっ面のメアリーが並んでいる。
「アル、一体どういうことか説明しろ。お前にはフランの目付役は頼んだが、新隊員の勧誘までは頼んでねぇぞ」
ジト目になる頼都に、アルカーナは苦笑した。
「いやあ、それには長い話があってね…後で詳しく話すよ、頼都君。それに
「あのねぇ!私は別に入隊なんか希望した覚えはないんだけど!?」
フランチェスカに「連れて帰る」と強引に押し切られ、透明化しつつ逃げようとしたものの、再度感電させられ、拉致されてきたメアリーが抗議の声を上げる。
それに、フランチェスカが手に紫電を走らせつつ言った。
「姉の言うことは聞いてください」
「だーかーらー!それは比喩っていうか、言葉のアヤっていうかー!きゃー!そのビリビリ近付けんなー!」
フランチェスカに壁際にじりじりと追い詰められ、青ざめるメアリー。
そんな彼女に、頼都が言った。
「おい、新人。お前の生みの親はアメルハウザーって本当か?」
「ほ、本当よ!なに!?何か不満なの!?」
怯えつつそう答えるメアリーに、頼都は呟いた。
「あいつめ…
溜息と共に立ち上がると、頼都は言った。
「しゃあねぇ。一応入隊志願者にはしてやるよ。代わりに、お前の名前は今日からただのメアリーにしろ。
やや投げ槍にそう言いながら、頼都は窓辺に立った。
今夜も月が静かに美しい光を放っている。
代わりに、城館はかなり騒がしくなりそうだった。
「あと、私のことは『お姉ちゃん』と呼んでください」
「うっさい!誰が呼ぶもんですか!ひっ!?いいからその手を引っ込めなさいよー!!」
Halloween Corps! -ハロウィンコープス- 詩月 七夜 @Nanaya-Shiduki
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