狼の感じた海
「はぁ、はぁ、ゴホッ!ぅ海だ……」
狼の少年は無意識に獣化が進んだ脚を折って海を見つめた
どれぐらい走ったのだろうか。
周りは真っ暗になっている。異常な暗さ。星一つなく、月でさえも姿を表さない。闇に飲まれたかのように、異常に暗かった。
それでも海が見えた。むしろ海しか見えない。自分でさえいないくて海しかないかのように。
宝石は見た事ないが、きっと今目の前にある海に比べ物にもならないだろう。それぐらい目の前に広がる風景が、景色が、海が
唯ひたすら異常な存在感があって
美しかった
「美しかった」
こんな言葉では表せない程目の前にある海は神秘的で偉大で美しい。狼の少年は無意識に泣いていた。
今狼の少年の目に映るのは彼が恋がれていた、念願の海。将来の安定した大牙将軍の地位をドブに捨て走って良かったとさえ思う。
自分の存在が酷く小さく感じる。
こんな景色を独り占め出来る嬉しさ、それと同時に独り占めしていいのかと言う罪悪感。
誰にも見せたくない、誰かと共観したい。
纏まらない思考、唯唯美しいと叫ぶ魂。
一直線に白い道を表す海に反してごちゃごちゃと渦巻き、嵐の様に荒れ狂う魂が狼の少年の中にいる。
それでも
狼の少年の中に
後悔はなかった。
嵐の海で 全異矛盾常 @Forever10
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