第2話 正義の生まれた日

街に立ち込める煙、そして炎。

その中で蠢く影が数機。


ツヴァイは自身の計画を

狂わされ苛立っていた。


「ツヴァイ博士、どうしましょう!

アンノーンは三機で街を破壊してますよ!」

「見れば分かる!これより奴らを敵と識別!

排除するぞ!」


漆黒の巨人はその脚のくるぶしの辺りから

紫色に輝く帯を展開した。


「輪廻機関出力30%!

低空モードで敵機に接近します!」


MKは巨躯を前傾させると、

厳かに加速していった。


「まったく、テスト運用じゃなきゃ

フル武装で行けたのに!」

「馬鹿を言うな。コイツは最悪の状況での運用前提で作ったんだ。

これで十分だ。」

シキガミのボヤキにツヴァイは自信に満ちた瞳で答えた。


アンノーンも街を飛び越え一直線に向かってくる鉄塊に気づいたようだ。

三機のうち一体が蛇腹状の腕を

ぶらつかせて歩み寄ってきた。

その手には特殊合金製のナイフが握られていた。


「シキガミ。トリガーは任せる。」

「こんな時まで研修ですか?」

「学ばぬAIに用は無いという事だ!」

MKは素早く身体を起こすと接近する機体に向かって掌を開き、

見得を切るように構えた。


「近接武器など……ナンセンスだ!」

巨人の手から一閃が放たれ、

アンノーンの頭を貫いた。


中枢を失ったのか、

全長35mの不気味な鉄塊は

ゆっくりと膝から崩れ落ちた。


「やりました!撃墜成功ですよ!」

「まあ、中々の出だしだな。」

嬉々とするシキガミをあしらうと、

ツヴァイは残りの二機に目をやった。


アンノーン達はMKの腹の辺りまでの大きさしかないが、

その小回りと機動力でMKを挟みうちにするような陣形で立ち塞がった。


「はは〜ん、死角から来るつもりですね!」

「コイツが木偶の坊では無いことを教えてやれ。」

アンノーンの片割れに手をかざしたその瞬間、

もう片方がMKの背部に向かってナイフを突き立てた。


だが、MKの装甲に一切傷は付かない。

「わっ!?」

「ぬるいぞ、シキガミ!」

ツヴァイが素早くトリガーを引くと

MKは掌からビーム砲を放つと同時に、

背部からビームワイヤーを射出した。

その二本の閃光はどちらも敵の頭部を捉えていた。

「背後に回った時点で貴様の負けだ!」

ツヴァイはそう吐き捨てると、

トリガーにかけていた指を下ろした。





傷ついたユートピアの街は

痛々しい爪痕からまだ煙を立ち上らせてはいたが、

「緊急鎮火機構」と呼ばれる、消化剤を振りまく

巨大なスプリンクラーによって大方消化活動は済まされていた。



「完全に見られちゃいましたね。

どうします?」

「プランを変更せざるを得ないな。

今は下手に動かずに、ひとまず政府の動きを伺う。」


研究所に戻ったツヴァイは

コクピットからMKに戦闘データを入力しながらシキガミの問いに答えた。


「公にはここは掘削機械の研究所になってますけど……

モノを見られちゃ言い逃れ出来ませんしねぇ。」

「AIがうろたえてどうする?プランは練ってある。

コーヒーでも飲んで待っているくらいの気持ちでいればいい。」

「僕は飲んだことないですけどね。」


ツヴァイとシキガミが他愛のない話をしていると、

ドックの隅にあるモニターに赤い点が浮かんだ。


「早速お出ましのようだな。」

「おかしいなぁ。

入所手続きをしたのは一名だけです。」

ツヴァイは訝しげに顎を撫でると、

シキガミに命じた。

「モニターに映せ。

政府の使者のご尊顔を

拝んでやろうじゃないか。」


モニターに映されたのは

肩まで伸びる橙色の髪。

政府の警護機関服を着た妙齢の女性だった。


「ローロイドか。」

「よくわかりましたね。」

ツヴァイは箱型のロボットに移動したシキガミを引き連れ、

応接室に向かった。

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超越機神マーベラス・キング @Neberun

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