超越機神マーベラス・キング

@Neberun

第1話:狙われた理想郷(ユートピア)

遥か未来。

人類は高度なロボット工学と生物工学を手にしていた。

だが止まらない人口増加は環境汚染を引き起こし、

結果として世界人口は大幅に減ってしまう。

人類は足りない人手を補うために多種多様なロボット、

そして第二の人類「ロードロイド」を生み出した。


旧世界政府は地球環境改善の為に新政府「ユートピア」を設立。

人類はユートピアに移り住み、外界の自然環境を改善すべく

ローロイド達と共に研究・活動を行った。




ユートピアが設立されてから100年後。


その地下には巨大な施設、

いや例えるならば

「正方形の大穴が開けられていた」

と言った方が正しいのかもしれない。

ぽっかりと口を開けたその空洞の底には、

全長50mはあろう黒いロボットが佇んでいた。


その偶像の胸元で、

乾いた打鍵音だけが静かに響き渡る。

「もう少しだ。」

端末に向かい顔を伏せていた男はそう呟くと顔を上げる。

髪はこの暗闇より暗い黒、目はどこまでも冷たい輝きを放つ深い緑。

背は170cm、スラっとした肉付きのせいか

黒のジャケットを身に纏ったその姿は

実際よりも背が高く見える。


「最終テストだ、準備を進めろシキガミ。」

「かしこまりました。ツヴァイ博士。」


この男……ツヴァイが前を見据えたまま命じると、

空洞に放送音声が響き渡る。


「10分程度でテスト運用に入ります。」

「わかっている。」

ツヴァイはロボットのコクピットを出ると、

即座に身支度を整え戻って来た。


「これより最終運用試験を始めます。」

コクピットのハッチが閉じると、通信機から音声が流れる。

「妙に堅いな。お前らしくもない。

 いつも通りに話してみろよ。」

ツヴァイが促すと、声の主はすっとんきょうな声を上げた。

「そんな事言ったってAIだって緊張するんですよ!

 ちょっと集中できないので真面目にやらせてもらえますか?」


ツヴァイは鼻で笑った。

シキガミは咳ばらいをすると、粛々と出撃の準備を進めた。


巨像に繋がれたプラグが全て引き抜かれると、

ハッチを囲んでいた通路は空洞の端へと捌けていった。


「地上まであと30秒です。」


「やはりカタパルトにしなくて良かったな。あれには情緒というものがない。」


「ま、この図体で飛び出したら

 カタパルトがイカレるっていうのもありますけどね。

 ……っと、地上まであと15秒です。」


ロボットの頭上に天井が迫ると、

天井は静かに開き、暖かな光と

青空が彼らを出迎えた。

「5……4……3……2……1……

 エレベーター停止。

 これより運用試験を始めます。」

「よろしい。ではこれより総仕上げとしよう。」

シキガミの淡々としたアナウンスに

うなづくと、ツヴァイは口を開いた。

「待っていろ。世界は私が手に入れる!」


そう、この男ツヴァイは政府を倒し

ユートピアを手にする為に

この巨大なロボット「MK(エムケー)」を建造したのだ。




その時。




施設の警報がけたたましく鳴り響いた。

いや、街の方でも彼方此方で

ひっきりなしに鳴り続けている。


「気取られたか!?シキガミ!」

「今分析してます……あっ、これは!?」

シキガミは警報を鳴らした犯人を

見つけると、モニターに移した。

「識別信号……政府のものではありません!正体不明です!」

ツヴァイは今起こっている事態を

ざっと把握した。


政府以外の何者かが空から降り注ぎ、

ユートピアの街を攻撃しているのである。

その躯体は全体的に丸みを帯びており、ユートピア所属の軍用ロボットとは全く異なる形状をしていた。


「クソ!勝手な真似を!

 私の邪魔をするな!」


望まぬ戦火が街を包む。

ツヴァイ博士の世界征服計画は、

ここから狂い始めたのであった。

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