第37話 停滞

この船のセルリアンはとても面白い個体で、不可能なはずの浮上を成し遂げたり、船の構造を造り変えたりしているのだ。

浮上した後、船内に潜んで居た大量のセルリアンが甲板に現れたサーバル達を襲撃していたが、その一方船のセルリアンは何をしていたかというと、船内の海水を抜いていた。

そうなると当然内部に居た者達は…


船が大きく揺れる。体が上下左右どこを向いているのかわからなくなる。細い通路の所々にある障害物にコツコツ体をぶつけながら園長はぶらりぶらりと流され続けた。

ライトの幽かな光が時々イルカの様な影を映し出す。耳を澄ませば笑い声が聞こえてくる。

…こんな状況でも楽しんでるの!?

今に始まった事ではないが彼女たちフレンズの凄まじいエンジョイ精神に園長はつくづく驚かされ、園長自身もまた、彼女たちの笑いに釣られてしまうのだった。


やがて流れは小さく、緩やかになり、天井から滴り落ちる水滴が廊下の壁に開いた穴から差し込む光に輝かさせられながら可愛らしい音を立てる様をゆっくり眺めることができるぐらいには落ち着ける環境となっていた。


「うーん、どうしようかな。このセルリアンを倒さなきゃいけないんだけど大きすぎるなぁ」


「それなら大丈夫だよ園長!お母さんはこの船よりもっと大きかったんだから!」


「さすがにそこまでは…」


微笑みながら否定するシロナガスクジラとそんなことないよと訴えるドルカ、マルカ、そしてシロナガスクジラの方がきっと大きい!と熱弁を振るうイッカクの3人。一方ナルカは目を閉じて何かを聞き取ろうとしていた。

そのナルカにどうしたのかと園長が問いかければ彼女はこう答えた。


「このセルリアンとて自力でこの船を動かせているとは思えなくて…もしかしたらエンジンを使ってるんじゃないかって今その音を探していたのです。」


「エンジン…、なるほど。さすがはナルカだね。」


「ふふ、ありがとうございます」


「それじゃあそれを壊しに行こうか、みんな、まだ戦える!?」


みんなは元気な声を出して腕を振り上げる。

そしてナルカが先導し、それに園長達が周囲を警戒しながら着いていくのであった。


甲板では互角の戦いが繰り広げられていた。

セルリアンはその圧倒的な数で甲板を埋め尽くさんと突撃をする。しかしトキとショウジョウトキの歌によって弱らせられ、サーバル達の元へ辿り着く頃には既にボロボロの状態で、そこをサーバル達がとどめを刺す。と云った流れが出来上がっていた。

しかしセルリアンは幾ら倒してもその圧倒的な数の差は覆せず、絶えず攻撃してくるセルリアンにサーバル達が消耗して疲弊していた。その時、遠くの船の陰から何かが飛んできたのをカラカルが目撃した。


「?、あれは……」


暫く見ているとフェネックがそれに気付き、アライさんの肩を叩いて少しの間頼むよー。と言って何処からともなく取り出した双眼鏡を使って姿を確認した。


「……うわぁ、なかなかヤバイよ。あれってバードリアンだよ」


「えっ!うそ!?」


「二体いるね。このままじゃあトキとショウジョウトキの援護が無くなっちゃうからこのまま押し切られちゃうかもねー…」


サーバル達の顔が青ざめて、サーバルが急いでトキ達に伝える。トキ達はどうしようかと悩んでいたが、サーバルのこっちは大丈夫だから!という言葉を信じ、バードリアンを倒しに行った。


「おおおおお!何としてでもここを死守するのだ!ただ耐え続けて敵を跳ね返すのだ!出来る!このアライさんが居る限りは必ず出来るのだ!!!皆、頑張るのだ!」


おーっ!と、サーバル達は叫び、士気を上げてセルリアン達を迎え撃った。

しかし彼女達の心の奥底には不安が生まれ始めていた。

…トキ達の援護があってもギリギリだったのに本当に耐えられるの?

セルリアンの大群を一層倒していく度に身体は疲弊し、セルリアンは倍の数になって押し寄せて来ている気がする。少しずつ脳裏に自分達がセルリアンに飲み込まれた時の想像がチラつき始める。徐々に、徐々に後退し始める。

トキ達はバードリアンをなかなか倒せないでいる。暫くはこちらへ帰っては来ないだろう。

絶望的な状況に身も心も疲弊していく。限界が近づき始めて、カラカルがみんなに海へ逃げるよう指示しようとした時、空の向こうから、小さな影が爆音を響かせてやって来た。

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ジャパリパークの日常 @ozizousama

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