第36話 心強い二人組
粉砕と言うには少し表現が弱いかもしれない。言い直せば破裂である。
そもそもパッカーンなどという気持ちの良い音が出ているのかすら疑わしい。スパァァンッ!!そんな音を立てて最初からそこに居なかったかのように破裂した。というのが正しい表現の仕方であろう。
セルリアン達は次々と派手な音を立てて千切れ、消えていく。この世の地獄とは正にこの事では無いのかとサーバルは、気を抜けば耳が一生聞こえなくなりそうなこの暴力的で喧しい超高音に耐えながらぼんやり頭に思いを巡らせた。
しかしそれにもやがて終わりは訪れる。
終始圧倒したマンドレイクの悲鳴じみた聞くものに害を与えうる音は徐々に収まり、そして消えゆく最後の僅か、それが歌のようなモノであったとサーバルはやっと理解することが出来た。
セルリアン達は態勢を立て直すためか、果たして甚大な被害を受けたからか、後方へと撤退して行く。サーバルとカラカルを囲い込もうとしていたセルリアン達も我先にと飛び跳ね、逃げ始めた。
「た、たすかったのかな…?」
「…………」
「あれ、カラカル?……!、そんなカラカル!いかないで!戻ってきてよ!」
「お願い、そっとして」
「あ、うん」
サーバルのギャグにも反応しない放心状態のカラカルは倒れ込み、青空を仰ごうとした。しかし視界に捉えたのは後光の陰に写し出された四体のヒトガタであった。
ひらりと舞い落ちる羽のように儚い雰囲気を醸し出す、されど蒼き大空に留まり続ける影。
その隣に番いし影は何故か声も聞こえてこないのにうるさい雰囲気をその身から放っていた。
そしてもう二体、それを確認する頃には既にカラカルの視界からは消えていた。行方はすぐに分かった。
カラカルから三メートル程離れた場所、そこからドスンッ!ドスンッ!と、何かが落ちる音が聞こえてくる。サーバルが見てみると、その正体はすぐに分かった。
「アライさん!?それにフェネックまで…どうしてここに?」
「あひゃぁ…耳が、耳が壊れちゃうよー」
「うぐぐ、さすがはトキ、このアライさんを討つとは…!」
「それって褒めてるのよね?分かったわ。お礼に私がもう一度…」
「いいえ!褒められたのはこの私ショウジョウトキです!(ドヤァ)ですから私がお礼の歌を…」
「どっちも歌わなくて結構なのだ!!!」
「みんな!来てくれたんだね!良かった、丁度今大変で…」
「あまりの衝撃に忘れていたが…サーバル!アライさんの野望を打ち砕こうたってそうはいかないのだ!」
「え…?なんの話?」
「とぼけるななのだ!この沈没船のお宝の話は既にマルカ達から聞いているのだ!故にアライさんは用意周到な準備をしてここへと満を持してやって来たのだ!」
「そ、そっかー…(だいたい話が読めて来たよ…)」
「しかし!そこには既に侵入者が存在していた!…お前達のことなのだ。お宝の主は二人もいらないのだ。だからサーバル!アライさんと決闘をするのだ!」
「け、決闘!?」
「そうなのだ!勝利した方がこの船の宝の主となる!こんな事もあろうかとアライさんは手袋を持っているのだ。さあ、決闘なのだ!」
「用意周到な準備ってもしかしてこれのことだったりして…」
「むふふ、これで勝てばアライさんは、この船の宝を資金源にアライさんのアライさんによるアライさんのための…」
「あー、アライさん?セルリアンがいっぱい来てるよー。やー、……多いねぇ。流石に今回は手伝わなきゃいけないか」
「また邪魔なのか!?これはきっとアライさんの野望を打ち砕こうとする勢力の陰謀に違いない!きっとそうなのだ!」
あまりに飛躍し過ぎているアライさんの話に、カラカルは呆れて呟く。
「……落ちた時に頭を打ったのかしら?」
「なに、アライさんは久々のビッグな話でハイになっちゃってるのさ、最近ずっとこつこつ働いてたからパーっと何かをやりたかったんだろうねー」
「わかるわ、私だってたまには何にも気にしないで全力で歌ってみたくなるもの」
「その時に鉢合わせないように注意しないと…」
「サーバル、ここは一時停戦するとして、先ずは状況を知りたいのだ。教えろなのだ」
サーバルはこれまでに起こったことをアライさんに話そうとしたがセルリアンがじわじわと近づき、隙を伺っているような様子であったので中断する事にした。
「あのセルリアン達をやっつけたら教えるよ!」
「……仕方ないのだ、宝を探すにはどの道あれらを倒すしかなさそうなのだ」
サーバルは仲間を手に入れた。トキとショウジョウトキ。それにアライさんとフェネック。カラカルも先ほどの音波攻撃から立ち直ったようだ。
…今度は簡単には負けないよ!だってみんなが居るんだから!
サーバルは爪を伸ばし、目の前の敵を見据えた。
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