決戦、竜神官グラート

 地面に降りたヴォードが人の姿に戻っていくが、溶かされた地面は陽炎のような揺らめきを残しながら熱を放ち続けている。


「これ……大丈夫なの?」

「問題ねえよ。そのうち固まる」

「そのうちって……」


 近づいただけで火傷しそうだが、ヴォードは大きく空いた穴の横をすり抜けるように歩いていく。


「大丈夫なのかしら……」

「一応、熱さから身を守る防御魔法はありますけど……」

「あ、お願い」


 ヴォードの後をついて行こうとして振り返って待っているアルフレッドに「こっち来なさい」と手招きしながら、ヒルダはシェーラにそう返す。


「では……あ、アルフレッドさんももっと此方に来てください」

「ああ」


 近寄ってきたアルフレッドとヒルダを見て頷くと、シェーラは杖で地面を叩く。


「我等、挑む者。されど、弱き者。どうか全ての熱より守り給え。この道を進む力を与えたまえ……ヒートガード」


 唱えると同時に、シェーラの杖から飛び出た赤い光が全員の身体を薄い膜のように包み込む。

 それと同時に、地面の穴から伝わってくる熱気が消えたような気がした。

 実際、ヒルダが恐る恐る穴に近づいていっても何も感じない。


「おお……凄いじゃない」

「熱さを感じないからって、近づきすぎて落ちないでくださいね?」

「アタシをなんだと思ってんのよ……」


 言いながらも、ヒルダは穴から後ろ向きで遠ざかる。

 なんとなくだが、穴の中から先程の化物が這い出てくるような想像をしてしまったのだ。

 勿論、そんな事は無かったが……シェーラも似たような想像をしたのか、先頭を歩くアルフレッドを盾のようにしながら3人は穴の横を歩いていく。

 すると、その先ではヴォードは苛立たし気に地面を足で叩きながら待っていた。


「遅ぇんだよ。何やってんだ」

「ああ、すまないな」

「お前じゃねえよ。どうせ後ろの2人がグズったんだろ」

「ちょ……!」

「行くぞ」


 返答を待つ前にヴォードは先へと歩いていくが、アルフレッドは「気にするな」とフォローのような言葉を投げてその後をついていく。


「ほんっと性格悪いわね……」

「そうかい」


 ヒルダの呟きにヴォードは気にした様子もなくそう返す。

 これでアルフレッドや明日香達と同じ「英雄」というのがヒルダには信じられないのだが……そんな英雄譚というものもあるのだろうと気を持ち直す。


「……見ろよ。お出迎えだぜ」


 そう言いながらヴォードが止まった、その先には……道の両側にズラリと並ぶローブと三角錐の覆面を被った何者かの群れ。

 恐らくはその正体は洗脳された住民達なのだろうが、先程のことを考えると中身がすでにそうであるとも思えない。

 そして、更にその先。建てられた白亜の建物のその前に、一人の男が立っている。

 年齢的には恐らく、老齢に差し掛かろうかという辺り。

 オールバックのような形で後ろに流した髪は白く、浮かべた表情は柔和。

 しかし、そんな顔のその奥では……こちらを馬鹿にしたような瞳の色が垣間見える。

 そして何よりも、人では有り得ないその爬虫類のような黄金の瞳がその正体を示している。


「あれが……竜神官とかいう奴なの……?」

「如何にも」


 未だ遠くにあるにも関わらず、聞こえてきた声はまるでヒルダのすぐ側に居るかのようだ。

 それが不気味で、思わずヒルダはアルフレッドの背後へと隠れるが……それと同時に、並んでいた信者たちが片手を真上へと振り上げる。

 その統率されすぎた動きが不気味で、ヒルダは嫌そうな顔をするが……聞こえてきたのは、満足そうな笑い声。


「如何かな? こんな異界の地でも超竜王様の威光は変わらず輝いておる」

「ハッ、くだらねえ。洗脳が信仰だってか?」

「結果として正しい思考に至るのであれば変わらぬよ。超竜王様を信仰する事で、彼等は救われたのだ」


 くつくつと笑うその姿は、間違いなく邪悪。

 話すだけ無駄だと……そう感じたのか、ヴォードの腕がドラゴンのものへと変じ始める。


「殺す前に聞いておくぞ。テメエ、何処から来た。俺達と同じルートじゃないだろう」

「さて、な。導きが欲しければ試練を超えよと……あの時も言ったな?」

「ああ、そしてテメエはくだらねえ予言を残して死んだな。「だから」聞いてんだよ」

「ふひっ」


 ヴォードの挑発に竜神官は笑うと、片手を空へと掲げる。


「あの時の私と同じと思うなよ、ヴォード。私には充分な時間があった……川崎支部と同じと侮ればすぐに死ぬぞ……!」

「口だけは達者になったみてえだなあ!」

「やれ! 裏切り者ヴォードとその仲間を殺すのだ!」

「やってみろお!」


 竜神官が叫ぶと同時に、道の両脇に並んだ信者達のローブが弾けて怪物のものへと変わっていく。


「うわ、ちょ……こいつら全員なの!?」

「下がっていろ!」


 魔導銃を取り出すヒルダにアルフレッドはそう叫び、一拍遅れて杖を構えたシェーラが結界の魔法を唱える。

 半球状のバリアがシェーラとヒルダを包んだのを見て、アルフレッドとヴォードは怪物達へと向き直る。

 竜神官は未だ人の姿を保ったまま、醜悪な笑みを浮かべ続けている。


「くふふ……ははは! さあ、あの時のやり直しだヴォード! 勝つのは……私だぁ!」

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OVAの聖騎士様~終わりから始まる英雄譚~ 天野ハザマ @amanohazama

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