城壁山脈6
「は、はは……! そんなもので防げる気なのか!」
面白がるように、いたぶるように。レヴァンは再び電撃をその角へと蓄える。
先程よりも強く、先程よりも広く。
自分が本気でやればあんなものを貫くなど造作もないと……そんな事を考えて。
「
だからこそ、足元のアルフレッドへの対処が遅れた。
「何……? 何を……があっ!?」
強固な外皮に守られているはずの足が、僅かに切り裂かれる。
変異したレヴァンの巨体からしてみれば僅かな傷だが、自慢の防御を貫かれたショックでレヴァンの角の電撃が霧散する。
OVA『巨獣機ヴァルガード』。巨大な化物「巨獣」と戦う為に造り出された「ティタンシステム」は、アルフレッドの中にも巨大な化物と戦う圧倒的パワーを生み出す。
それ故に、この結果は当然。だがレヴァンからしてみれば訳が分からない。
「くっ……お前などに!」
レヴァンはアルフレッドを踏み潰そうとその足を踏み鳴らすが、素早いアルフレッドを中々捉えられない。
そして、アルフレッド達を逃がさないために呼んだ他の仲間達は……レヴァンの電撃の邪魔になる為、迂闊に前へは出せない。壁以上の使い方をすれば、逆に足を引っ張る結果になる。
「死ね、死ね!」
足を踏み鳴らし、角へも電撃の力を集中させる。
アルフレッドの剣が自分にも効くというのであれば、振らせなければいい。
とにかく必死でアルフレッドが避けている間にチャージを完了し、吹き飛ばしてやると。
だから、それだから同じ間違いを繰り返す。
上空に現れた、人型のドラゴンを見逃す。
「バーン……ブレイドォォォ!」
「なっ!?」
そこに居たのは、人型のドラゴン。
大人二人分程の大きさを持ち、その身を竜鱗で包んでいる。
兜から零れる髪のように赤い毛が頭の後ろに流れ、それがヴォードが完全変異した姿であると想起できる。
そして……天へと掲げた腕から伸びるのは、巨大な炎の剣。
ゾクリとする程の魔力の込められたそれは熱気だけで周囲の空気を揺らめかせて。
「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「う、うあああああ!? サンダーフォール!」
溜めていた電撃の全てを、レヴァンはヴォードへと解き放つ。
落ちろ、と。墜ちろと。
天から降る巨大な雷がヴォードを貫き、しかし同時にヴォードの炎の剣がレヴァンを叩き切る。
「ぎゃ、ぎゃああああああ!」
レヴァンの右腕が炎の剣に切り裂かれ、炭化しながら落ちていく。
防御がどうとか、そんなレベルではない。
恐ろしいまでの高火力による焼き切り。そんなものに耐えられるはずがない。
当たり所が悪ければ、レヴァンが丸ごと焼け焦げていた。
「ち、ちくしょう! 僕が……僕がこんな! お前、なんだそれは……その姿は!」
雷に撃たれ落ちたヴォードは、その落下地点から焼け焦げながらも立ち上がる。
竜鱗はレヴァンの電撃のほとんどを耐えきり、しかし無傷ではない。
だが逆に言えば、その程度。
「なんだ、だと? あの野郎から聞いてないのか? 俺が超竜王の……顔も見た事のねえクソ親父の息子だってな」
「馬鹿な、馬鹿な! それじゃお前は……」
「ああ……見ての通りドラゴンだよ」
有り得ない、と。レヴァンは自分の前にある現実を否定する。
ヴォードが自分の崇める神……超竜王の息子。
それでは、それではまるで。自分はそんな凄まじい存在を足止めする為だけの捨て駒ではないか。
そんなはずはない。そんなはずがないと、ヴォードは恐怖を必死で抑え込む。
「は、はは……僕は、僕は選ばれたんだ。僕は……僕はあああああああああ!」
レヴァンの角に、電撃が集まっていく。
「全員突撃しろおお! 時間を稼げ、僕がこいつらを全部吹っ飛ばすまでのなあああああ!」
その言葉を合図に、待機していた巨大な怪物達が全員突撃してくる。
レヴァン程の硬い表皮を持たずとも、その巨大さだけで充分な脅威と成り得る怪物……およそ5体。
「任せるぞ、アルフレッド」
「ああ……任された、ヴォード」
互いを見もしないまま、2人の英雄は言葉を交わし合う。
何を、とは言わない。この「物語」から派生した悲劇を終わらせるのがヴォードの役目であるならば。
それを邪魔する有象無象を掃うのは、アルフレッドの役目。
だからこそ、アルフレッドは唱える。
「
その手の中の剣が、ヴェガの剣へと換わる。
この戦いを終わらせろと叫ぶかのように、青い宝石が輝く。
「ガアアアアアア!」
「GIAAAAA!」
「グオオオオオオ!」
叫び迫る怪物達を前に、アルフレッドは剣を構える。
そして……光が、集う。
「光よ集え」
ヴェガの剣に、光が集う。
白く、眩く……神々しく。
ヴェガの剣には轟音と共に力を増し、周囲の風が逆巻いていく。
そして集う力は頂点に達し……眼前に迫る怪物達へと振りかぶられる。
「闇を裂き、世界に光を……! ラ・アウラール・レナーガ!」
巨大な光の奔流が、巨大な怪物達を呑み込んでいく。
そして、もう1つの戦いもまた。
「受けろおおおお! サンダーバーストォォ!!」
「メギドブラスタアアアアア!!」
ぶつかり合う巨大な雷と炎。
2つの魔力がぶつかり合い、やがて炎が雷を駆逐する。
断末魔すら無くレヴァンが消え去った、その後には……溶けて巨大な穴を晒した地面のみが残っている。
大気すら揺らぐ熱気の中で、人型のドラゴンは……ヴォードは、吹き飛ばされて飛んできた何かを掴み取る。
それは未だ僅かな電気を残したレヴァンの角の欠片で。
ヴォードはそれをヒルダ達の方へと放り投げる。
「え、うわわ!? 何よ!」
「持っとけ。お守りくらいにはなるかもだぜ」
地面に突き立ったそれを見て、ヒルダはシェーラと顔を見合わせて。
やがて、ヒルダはそれをそっと布に包み込んだ。
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