集合ポスト

夏秋冬

集合ポスト

千尋の住むマンションには当然1階に集合ポストがある。どこでも同じだろうが郵便よりも広告の方が多い。ポストを開け山のような広告を部屋に持ちかえり、その中から必要な郵便物を選り分ける。そして広告は古紙ゴミの日に出す。

みんななんとかならないかと思っていた。


マンション自治会の総会で集合ポスト脇に古紙ストッカーを置いてはどうかと提案があった。その場で広告はストッカーに入れてしまえば部屋まで持ち帰らなくても済む。それをまとめて自治会役員が古紙として処分すればいいだろうと。

みんな「それは良い」と賛成した。が、千尋は確かにありがたいとは思ったが「それはきっとゴミだらけになりますよ」と反対した。でも賛成多数で採用されてしまった。


それが半年前。


今は古紙ストッカーの周りはゴミだらけになっている。

ストッカーに紙を入れるのが乱雑になり、やがてゴミが放り込まれ、今はその周りにもゴミが散乱している。自治会役員も「もう嫌だ」と投げ出した。

人は綺麗な場所を汚すのには罪悪感があるが、汚れた場所にゴミを放りだすのには躊躇しない。ゴミがあるところにゴミは集まる。分かってた法則なのに。


多数決がいつも正しいとは限らない。反対の声を上げると「対案は?」と問われるが、悪い方向にいくのを止めたいだけなのに。今のままの方がましってこともある。みんな変化を起こすことが進歩だと思っているけど、メリットだけを思い描いて事を為すのは無計画過ぎる。


「悲観主義に陥らず変化を受け入れ前進しよう」みたいな言葉はそりゃあポジティブだと思うけど、デメリットを警告して現状維持を訴えることは何もネガティブなことではないと思う。でも夢を抱いた多数派にはそれが伝わらない、そう思うと千尋は少々うんざりするのだった。

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集合ポスト 夏秋冬 @natsuakifuyu

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