第42話 シロ「元流浪人ではなく、元暗殺業者です」
クロの手が離れた瞬間、私の頭を覆う清太を払い、溜息をはく。
「暫くレオンさんには近づかない方がいいね。冒険者活動どうしようか?」
「あー、一回ズルしたからギルド職員の人に目ぇつけられたしな」
一応レオンさんには近場ならば城壁の外へでてもいいと許可は貰っていたのだが、もう通用はしないだろう。大門を通らず外には出れるが、依頼を受けられないから意味はないし、薬草とかどこで採ってきたと聞かれてバレることは確実。
大金は入ったが、暇になりそうだ。何をしようかね。
『二人とも何故実力を隠しているんですか?』
「「子どもだから」」
「人生をね、そろそろ楽しみたいんだよ」と清太に言うと「そう、なんですか?」とよくわかっていないようだ。
あぁ、そっか。私達の謎人生について説明してなかった。
とりあえず江戸幕府が滅亡することを知っていたことを話し、生まれは幕末よりも約二百年後と説明。流石の賢者様も理解が及ばなかったのか「はぁ、はぁ?」と言っている。
『何故この世界ではなく、過去へ、たいむすりっぷ? したのですか?』
「私が聞きたいよ。しかも森の中に子ども姿でとかさ、死ぬかと思ったわ」
「俺は美濃の藩主の家に落ちてさ、ラッキーだった」
「美濃って織田信長にゆかりあるよなぁ」とケラケラ笑うクロに、清太は「アンタ所作が綺麗だし、育ちはよさそうでしたからねぇ。納得しました」と頷いている。
わかる、仕草で育ちがちょっとわかるよね、わかる。
ちなみに私は美濃の藩主に仕える男に拾われて、藩主の影となるよう育てられた。そうなんです、本来私は「クロにお仕えする側」なんです。
だから大将向いてないって言ったろ。
攘夷志士になると決めたあの日、何故かクロは「んじゃ俺、シロについてくわ」と言って養父である藩主様と育ての家族に別れを告げたのだ。
後に色々あって、結局美濃の藩主とは繋がっていたけれど。討幕派の偉い人と繋がっていたということは、清太も知っている。野衾の資金はそこから貰っていたからね。
一日に色々あって疲れたが下宿先に戻る気分ではなかった。なので出店を冷やかしながら食べ歩きをすることに。
飲み物の屋台でリンゴジュースのようなものを購入。入れ物は竹筒に似ていたので、日本文化ぁ……と清太を睨みつけておく。
二人で「うめぇ」「うめぇなこれ」とがぶ飲みしつつ歩き出した。
ふわふわと浮いている清太へ話しかけると、誰にもいない所へ話す変な奴になってしまう。
だけど隣にクロがいるので、隣に話しかけていると勘違いしてくれるだろう。
人は意外と他人を見ていないもんだ。
『何にしてもたいむすりっぷとやらをしなければ、俺は深山さんに出会えなかったということですね』
『これを運命と呼ばずして、なんとする!!』と悦に入った表情で両手を合わせる清太に対し、私は苦笑する。
タイムスリップと異世界召喚された身としては、運命に翻弄され過ぎて、もう疲れたよ。
「清太、私の刀に変な機能つけてないよね? なんかこう、斬撃が飛ぶとか」
「あぁ、そいやシロ悪魔戦の時バンバン飛ばしてたよな。アニメみたいに」
『あにめ? うーん、斬撃が飛ぶのはスキルの影響だと思いますよ。二人とも剣術のレベルは神級でしたよね? 基本中級レベルになると意識的に斬撃を飛ばしたり、魔力を纏わせて強化したりすることが可能です。まぁ使用者本人の力量と、装備した剣の強さにもよりますが。深山さんの打刀は神級クラス、魔剣に該当していましたが……スキル大賢者が深山さんに移行されましたので、魔力伝導率の高いちょっといい刀ですかね? というか、よく刃が他の刀よりも薄く軽く出来ている刀で、人の太い首を斬り落とせますよね』
『初めて触った時、驚きましたよ。よく壊れないなーって』という清太に「よくわかったね」とニヤリ笑う。
本当に、よくわかったね。
気づかない奴が殆どなんだけど、野衾で私とクロの次に強く、偉かっただけはある。ただの変態で終わらなくてよかったよ清太君。
「うーんと、昔は濁してたけど。言っちゃっていいか。私の剣術は舞月流って言って、簡単に言うと暗殺剣ね。月夜の下で、兎と蝶が舞うかの如く飛び跳ねるっていうのが成り立ちらしいよ。だから私の打刀の鍔には兎の模様があって、クロの脇差には揚羽蝶が描いてる。舞月流の後継者は、本来打刀と脇差を一緒に腰に差すのが習わしなんだけど。男装してたとはいえ、女ですから二振りも差すと動きが鈍ってね、飛び跳ねられないから私はクロに預けた。ここまではおっけー?」
『おっけーですけど、何故副大将に……もっといい人いましたよね!?』
「いや、クロとは元主従だから渡して当然なんだけど。本来飛び跳ねながら敵を倒す剣術だから、重いと身動き取れないでしょ? なので舞月流の刀は軽く作られていて、刃が薄いのも軽くするためだっけかな。刀身が軽くても首を斬り落とせるのは刀を振る速度をつけて、勢いで斬ってるというか……まぁ素速さが命の剣術だと思ってくれればよし」
『凄いんでしょうけど、凄さがよくわかりません!』と正直に言う清太。クロも知っている筈なのに「へぇ、そうなんだー」と今知ったように頷いている。わかってないだろお前。
美濃の藩主やその家族を代々影から支えたのが、舞月流の暗殺者だ。
私も師匠に拾われ舞月流の後継者として育てられた。お蔭で死ぬかと思うほどの鍛錬を積まされたが、今の生きる糧になっているので何とも恨み難し。現代人なのに現代に少々馴染めなくなったのはマジで恨む。
「何にしても、この打刀で斬撃とか飛ばしたら折れるよね?」
『さぁ……どうですかね。魔力伝導率はかなりいいので、魔力を纏わせておけば意外と大丈夫かと。硬化の付与魔法をかければ簡単には折れない筈……手は色々ありますよ』
「いや、別に斬撃飛ばしたいわけじゃないんだけどさ」
「俺は斬撃飛ばしてみたい。かっけぇじゃん」
「中二病を再発させたい」と両手をワキワキと動かしているクロを、「そんな状況に追い込まれるのはもう二度と嫌だ」と一刀両断して、リンゴジュースをすする。どうせその時になったらクロは銃を構える筈、ということは刀をもって突撃するのは私ってことになるわけだ。絶対に嫌だね!
そんなこんな、クロと清太と懐かしい話に花を咲かせながら下宿先へと帰宅した。
今日の夕飯はステーキだった。和食が恋しい……。
訳アリ国語教師と体育教師が異世界召喚に巻き込まれたようです 藤白春 @fuzishiroharu
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