第41話 シロ「女心と逆恨み」
「琥珀さん、主として命令します。私とクロ、清太のことは誰にも伝えないように。家族にもです、今まで通り「刀はカズサノスケ様が預かっている」ということにして過ごしてください」
「し、しかしそれではっお二方をお守りすることができません!」
「賢者の刀をもつ私達が、簡単に死ぬとでも?」
「い、言われてみれば……」
「いいですね。誰にもこの事は伝えないように、カズサノスケ様にも黙っているように伝えてください。私達は騒がれるのが嫌いです。何かあれば、どうなるか……ね?」
「っかしこまりました!!」
人差し指を唇にあてニコリ微笑みを琥珀さんに向けると、琥珀さんは息を飲み込み、頷いた。
予防線は張っておいた。バレる時はバレるだろうけど、時間は稼げるだろう。多分。
琥珀さんの案内で城下へと脱出できた私とクロだったが、フワフワ浮く清太をどうしようか。刀を異空間収納に入れてみたが、清太は消えない。
「ねぇ清太ってなに扱いなの? 他から見えないようにできる?」
『あぁ、俺はスキル扱いですかね? 刀のスキルとして宿っていましたが、今はお二人に直接繋がっていますのでお二人ともスキル「
「外付けハードディスクみたいだな……」
「録画してたアニメ溜まってるんだろうなぁ……」
『何ですかそれは?』
「いや、何でもないよ。大賢者って私とクロで一つなの? それとも個別?」
『個々にスキルが追加されたはずです。この姿はどちらか一方の大賢者で顕現している場合はもう一つ顕現はできません。今は深山さんの大賢者で俺が姿を現しています。というか深山さん以外は嫌ですので、副大将はやらないでください』
「正直すぎるだろお前」
「喧嘩なら買うぞ」とファイティングポーズのクロと清太。
スキル「大賢者」が増えたなら、クロが鼻血をだした魔力感知と鑑定を同時使用ができるようになるってことかな……戦いでの魔法行使が楽になりそうだ。
悪魔戦で魔法を使うのに手間取って悔しかったから、ラッキーといえばラッキーかな。
正直なところ大太刀は使い慣れてないし、巨体なんて相手したことなかったし、魔法なんてファンタジーの世界の話で、実際使うのは難しかったし……文句しかでてこない。
今回は勝ったからいいけど、二度とやりたくない。
使い慣れた刀が手に入ったから少しは楽になるだろうけど、もう勘弁して欲しい。異次元バドルなんて絶対してやんねぇかんな!
まぁ、とりあえず。
「清太は姿を私達以外に見えないようにして、滅多なことが無い限り姿を見せないこと」
『了解です。今からどこへ?』
「今日の予定回収」
「そいやレオンさん達の拠点に行くんだったな今日は」
「思ってた以上に遅くなったけど」というクロに頷く。
午前中で片付ける用事のつもりだったのに、もうおやつの時間だ。サクッといって帰ってこよう。刀も手に入ったし、ヤジロベエ様に聞くことも無くなった。お土産だけおいて帰ろう。
清太にレオンさんの説明をしながら、「紅蓮の
レオンさんってカズサノスケ様のひ孫なんだよな、悪魔戦のとき鑑定して気づいたけど。王子様ってことだよね? 何故王子が冒険者をやっているんだろう。
謎だが、聞いたら必要もないことに巻き込まれそうだ。黙ってよう。
ヤマトノ国の中心地、貴族街を抜けて平民街へ。途中出店をやってるおじさんやおばさんに道を聞きながら、一時間ほど歩いてやっとついた「紅蓮の獅子」の拠点。
建物をみると、大正浪漫溢れる建物といいますか……だから異世界に日本文化混ぜるなって。
洒落た格子の門を開いて中へ入ると、黒い三角帽子を被り、「ううう、何で私が草むしりなんて……」と半泣きで庭の草むしりをしているビビアン様を発見。挨拶は基本だよね。
「ビビアン様、こんにちは。お見舞いにきました」
ビビアン様の前に立った私達に首を傾げ「あら、どなた……あー! あの時の子ども達!! あんた達がいなければ私は上級悪魔なんて召喚しなかったのにっ!!」とビビアン様に人差し指を突きつけられ、睨みつけられた。
突然何事!? とクロと顔を見合わせるが、全く見当がつかない。
逆恨み、だよねこれ?
「あんた達も私の事を笑いに来たってわけねっ!! さっさと帰りなさい!!」
「あんた達のせいで冒険者達には冷たい目で見られるし、レオン君は私のことみてもくれないしっ! 最悪よ!!」金切り声で喚きはじめたビビアン様に、ドン引きする。
あぁ、逆恨みだぁ……。
調子乗って変なの召喚したのは貴女ですし。しかも倒したの私達ですよ?
実際に被害を受けてるのは、私達なんですが。
「わぉ……クロ出番」
「やだむり、女心なんて未知だから」
『女心って言わないですよ、これは醜い大人の言い訳っていうんです。深山さん、斬りますか?』
「だーめ。薬置いて帰ろう」
こういう手合いには関わらないのが一番だね。
マジックバックから上級回復薬四本を出し地面に置く。
手渡しをしたら、叩き落とされそうだなって思っての行動だ。
「ビビアン様、お見舞いの回復薬です。置いて行くので使ってください」
「嫌よ!! 施しは受けないわ!! それにその薬が毒だったらどうするのっ私を殺すつもりね!!」
発想が思っていた以上にぶっ飛びすぎやしないかビビアン様。
「こんなものっ!!」と上級回復薬の入った瓶を掴み地面に叩きつけようとしたビビアン様の腕が掴まれた。
ビビアン様がハッ! と見た先には、顔も赤い髪にも覇気のないレオンさん。
疲れた顔してんなぁ。他人に手柄を盗られたことがそれほど苦だったか。
または、仲間が起こした問題の後片付けに翻弄され疲れたのか。レオンさんの性格から後者かな。
「ビビアン、この子達は悪くないと何度も言っているだろう」
「で、でもっこの子達がいなければ私は上級悪魔を召喚しなかったもん!!」
「偶然召喚されたのが上級悪魔だっただけだろう。シロとクロには関係ないし、召喚に闇の魔石を使ったビビアンの判断ミスであり、ビビアンに魔石を渡していた俺のミスでもある」
「っレオン君は悪くないわよっ!! あの時私がこの子達にそそのかされていなければっ!!」
「そうよ、私この子達にそそのかされたの!!」とまた指をこちらへ刺し向けるビビアン様に、流石に腹が立ってきた。
あぁ言えばこういう。いい年した大人が……レオン様は意外と素直なんだ、お前の虚偽を信じたらどうしてくれる。
斬ってやろうか、いや刀の錆びになるだけか。後始末も面倒臭い。
あぁ、清太にやらせようか。とジーっとビビアン様を見ていたことに気づいたクロが、私の肩に手を置く。
「落ち着けよー相手するだけ無駄だってわかってるだろー?」
「そりゃわかってるけどさー」
『俺がやりましょう。カスも残しません。オラ! クソアマァ、うちの大将達にむかっていい度胸じゃねぇか、あぁん?』
「シロよりもヤバい部下がいたよ」
「だめだぞ清太くん!」と今にもビビアン様に斬りかかりそうな清太を止めるクロ。
清太が見えないレオン様は「どうしたクロ?」と心配しているが、ビビアン様は「ほら! この子達頭が可笑しいのよ!! 私は悪くない!!」と支離滅裂だ。
可笑しいのは貴女です。
「シロ、あの時ビビアンに何か言ったか?」
「何も。勝手に調子に乗ったその人が、勝手に召喚魔法使いました。目の前に大きな悪魔が現れて、めっちゃこわかったです」
「必要のない事を聞いた、すまない。この上級回復薬は?」
「夢幻草店で買ってきたものです。毒は入ってませんから安心してください、不安だったら捨てても構いません」
「高かったろう。大切に飲まさせてもらう」
ふわりと笑い、ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でたレオンさん。対して甲高い悲鳴を上げるビビアン様。
この人が可笑しくなってるの恋心のせいだろうか、それとも素か? どちらにせよ、面倒だからもう二度と関わりたくないな。
クロの頭も撫でまわしたあと、大事そうに上級回復薬を抱えたレオンさん。
ビビアン様は「ああああそんな危ないモノ捨ててよレオン君!!」と叫んでいる。ビビアン様の印象は巨乳のAランクお姉さんから格下げだな。
「仲間がすまない」頭を下げたレオンさんに、気にしてませんよーと曖昧に笑う。
見送るレオンさんとビビアン様の悲鳴に似た罵り声を聞きながら、紅蓮の獅子の拠点から離れる事数十メートル。
「はぁ」と歩くのにも疲れ、近くの塀に背をあずけた。
一歩意的な悪意。意味が分からなさすぎて、しんどい。
「疲れた……」
「うん、よく耐えたな偉いぞー」
「褒美に頭を撫でてやる」と調子に乗ったクロにも頭を撫でられたが、その間の清太の顔がとても酷かった。地獄でも見た顔してんだもん。
みんなして、落ち着けよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます