12#そして、野良猫アルは行く

 そのまた別の日。



 しゅーーーーーーー!!



 何処かの開店セールで、配布のゴム風船にヘリウムガスを入れて膨らませている人間の姿を、野良猫のアルは見とれていた。


 野良猫のアルは、ふとまたあの子猫の事を思い出していた。


 これからも野良猫のアルは、ゴム風船を見掛ける度に、あの子猫の笑顔を思い出すだろう。



 しゅーーーーーーー!!



 「あれ?あのドラネコ。」


 「風船欲しいのかなあ?あの猫。」


 風船にヘリウムガスを入れていた店員は、野良猫のアルに気づくと、「こっちにいらっしゃい!」というジェスチャーをした。



 きゅっ。


 「えっ?!えええええ!!」


 野良猫のアルの丸い尻尾に、いきなり店員が膨らませたての赤い風船の紐を結んだのだ。


 「あの・・・」


 とりあえず、野良猫のアルは店員に軽く会釈をすると、尻尾に紐で結ばれた赤い風船を揺らせて、恥ずかしげにその場を去った。




 ・・・尻尾に赤い風船・・・


 ・・・子猫よお、これで俺はお揃いだぜ・・・


 ・・・お前を失った悲しみを紛らす為に、苦手な風船膨らませたりしたけど、やっと吹っ切れたぜ・・・


 ・・・猫の天国の子猫よお、また一緒に遊ぼうな。夢想の中でな・・・




 通りすがってきた仲間の野良猫が、尻尾の風船に何度も振り向いて歩く、野良猫のアルを囃し立てた。

 

 「あーっ!アルちゃん!風船付けて可愛いぃぃぃ!!」


 「そこのオメエ!!うるせえよ!!」









 ~野良猫アルの伝説~猫情ゴム風船~


 ~fin~

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野良猫アルの伝説~猫情ゴム風船 アほリ @ahori1970

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