11#野良猫アルと風船

 ぷぅ~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~!!


 野良猫のアルは、頬っぺたをめいいっぱい孕ませて、顔を真っ赤にして、公園で拾った萎んでいたゴム風船に吐息を入れて、おっかなびっくり口で膨らませていた。


 ぷぅ~~~~~~!!


 「この位でいいかな?」


 「あっ!アルさぁーん!!何してるんすか?」


 そこに、雌の『さくら耳』地域猫のサクラがやって来た。


 「ギクッ!!」



 ぷしゅーーーーーーー!!ぶおおおお!!!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!



 「いや、何でも何でも無いよサクラちゃん。」


 その頃野良猫のアルは、雌地域猫のサクラに身を寄せていた。


 雌地域猫のサクラはかつて野良猫のアルの唯一の初恋の相手であり、野良猫のアルは悲しみを癒す為に再び雌地域猫のサクラに逢いに来ていたのだ。


 「あれ?ここに、萎んだゴム風船が落ちてるわ?これ、アルさんが膨らませていたでしょ?」


 「これ?う・・・うん。ぷ、ぷぷっ!

 これはね、サクラちゃん。風船を克服する為のイメージトレーニングを・・・」


 野良猫のアルは、子猫の死から暫くは風船そのものを見るだけで嫌になっていた。


 あの子猫の満面の笑顔を思い出して、涙が止まらなくなるからだ。


 「メソメソして、無頼の雄前のアルさんらしくないぜ!!」

 と、思われたくないアルは、何とかそのトラウマを拭うために、あえて風船を膨らませたり、親しもうとリハビリしている最中だった。


 ただし、風船が割れなければだ。


 野良猫のアルは、風船が割れる音に恐怖を感じるのは相変わらずだった。


 「アルさん、風船膨らましてる顔、何倍も浮腫んでたよ。」


 「余計なお世話だ。」


 「私、風船膨らますの得意なの。膨らませていい?」


 「ちょ・・・それって、『関節キス』にならねえか?

 この風船、中は俺の涎だらけだよ?!」


 「それでもいいの!!」


 雌地域猫のサクラはそう言うと、息を深く吸い込んで頬っぺたを孕ませて、黄色い風船に息を吹き込んで膨らませた。



 ぷぅ~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~!!



 「やめっ!!やめっ!!大きい!!大きい!!割れる割れる割れる割れる!!」


 野良猫のアルは耳を塞いで騒ぎだした。


 ぷぅ~~~~~!!


 ぷぅ~~・・・



 パァーーーーーン!!

 「うにゃーーーーーーーーっ!!」


 「やっぱり、アルさんの弱点は風船と私ね。」

 

 黄色い風船を膨らませ割った、雌地域猫のサクラは、のたうち回るアルの姿に、思わずくすっと笑った。



 ・・・サクラさん・・・




 


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