10#子猫の命は風船になって

 ・・・・・・



 「ん・・・夢か。」


 野良猫のアルは、眠い目を擦って辺りを見渡した。


 「やっぱり風船を割られると・・・めっちゃ恐怖だにゃ・・・」


 野良猫のアルは、鼻を肉球でプニプニと掻いた。


 「やっぱり夢でよかっ・・・はっ!!子猫!!」


 野良猫のアルは、隣で寝ている筈の子猫を確かめようと振り向いた。



 ぷ~~~~~ん・・・



 「うっ!腐臭?!」


 思わず鼻の孔を肉球で塞いだ、野良猫のアルは嫌な予感がした。


 集るハエ。


 沸き立つ蛆。


 「子猫が・・・」 


 野良猫のアルの目から、大粒の涙が次々と流れ落ちた。


 「子猫が・・・死んじゃったぁぁぁぁーーーーー!!!!」


 野良猫のアルは大声で泣いた。


 余りにも若すぎた死。


 やはり子猫の命は、あの猫の天国へ飛んでいったのだ。


 風船になって飛んでいったのだ。


 子猫の亡骸の尻尾に括られた赤い風船は、すっかり萎びてゴムが劣化して、子猫の亡骸に染み付いていた。


 野良猫のアルは泣いた。


 大声で泣いた。


 涙が枯れるまで大声で泣いた。


 涙が枯れて、野良猫のアルは子猫の亡骸をくわえて廃工場をトボトボと抜け出て、あの子猫と初めて出逢ったあの街路樹へ向かった。


 人間や他の仲間の野良猫に感づかれないように、裏道を歩いて街路樹へ向かった。


 野良猫のアルは、あの街路樹の前に付いた。


 穴を掘った。


 掘った穴に、子猫の亡骸を埋めて石を墓標に墓を立てた。


 子猫の墓を立てると、あの日赤い風船が引っ掛かっていた街路樹の枝を見上げた。


 感極まってまた、野良猫のアルの目から涙が流れた。


 子猫を命を守れなかった悔しさと、虚しさと、己と同じ人間に翻弄された身分だった事への深い憤りと・・・

 

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