不浄なる獣 三十と一夜の短篇23回
白川津 中々
第1話
かつて一匹の獣がいた。
爪も牙もなく、面も醜い。足が速いわけでも空が飛べるわけでも泳げるわけでもなく、取り立てて鳴き声が綺麗なわけでも、血肉臓腑に特別な効能があるわけでもない。何もできず、何の役にも立たず、それでいて誇らしげに、汚物を排泄するような音で鳴き散らし自己を主張する害獣が、一匹いるのであった。
害獣は全てにおいて欠陥しているといっても過言ではなかったのだが、殊更目立つ醜悪はその体毛であった。害獣は糞尿を撒き散らした後、自らの身体にそれを擦り付ける習性があり、悪臭と共に現れる、汚物と泥とがだらりと垂れた歪に伸びた体毛が、見るもの全てに吐き気を催させ、嫌悪の対象として嫌悪されていたのであった。
その姿を元に、不潔極まりないという意味で
日本人の精神性はすでに毛腐々々となって久しい。もはやこの状態は、人類が死滅するまで変わらぬだろう。不浄を良しとする現代日本の現状に歯噛みし、唾棄する私は、側から見ればそのあり方は悍ましく、かの害獣と等しく見えるのだろうが、私には、今に生きる人間こそが毛腐々々に思えるのである。
不浄なる獣 三十と一夜の短篇23回 白川津 中々 @taka1212384
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