僕と先輩のデート
桜がすっかり花を落とし、緑色になった頃の土曜日、僕と先輩は
実際、先輩とデートは僕にとって嬉しいことである。
しかし、先輩は超がつくほど顔が良い。
学校では二大美少女と呼ばれているほどである。まあ、先輩はどちらかといえばキリッとした感じの美しさで、もう一人は可愛い系の美少女である。確か僕と同学年、つまり今二年生で、相当変わっていることで有名だったな。
と、脳内で話が逸れた。とまあ先輩は誰もが認めるほどの美少女なので、問題が発生する。
「先輩と手を繋ぐと男性からの憎悪のこもった視線が痛いのですが。」
「奇遇だね、私も君と手を繋ぐと女性から憎悪の視線を感じるよ。」
「不思議ですね。」
「うん。」
本当に不思議だ。どうして先輩が憎悪の視線を向けられるのだろう。
あ、リア充爆発しろ的なアレか?
「じゃあ、まずは服屋に行こうか!」
服屋か。そういえば先輩の私服姿可愛いな。後写真撮らせてもらうか。
よし、先輩がもっと美しくなるためにも今日のところはしっかりと買い物に付き合うとしよう。
と、決意したのが三時間前。
三時間ずっと女性物の服ばかり見せられ、どれが似合う?と訊かれ続けた。
いや、ある程度の覚悟はしていたのだけれど、実際に女性の買い物に付き合うとそれ以上の覚悟がいると言うことを僕は理解した。
「じゃあ、ちょっと目を瞑ってついて来て。」
「はい。」
もはや逆らう気力も無い僕は大人しく目を瞑り、手を引かれるままについていく。
なんでだろう。目を閉じて歩くと凄く疲れる。
「ついたよ。目、開けて。」
恐る恐る目を開けると、そこは女性物の下着売り場だった。
「ッ!!!!!!!!!!!!?」
僕は声にならない悲鳴をあげる。と言うか
いやいやいやいや、これはおかしい。
「あれ?どうしたの?もしかして照れちゃってる?」
「せ、先輩!!ふざけないでください!健全な男子高校生には刺激が強すぎます!」
僕は目を瞑って見えてしまわないようにしながら先輩に抗議する。
「どうしても今日買わないといけなくて、ごめんね?」
「わかりましたよ!じゃあ僕はずっと目を瞑ってますから、さっさと買って、僕をここから出してください。」
仮にここで先に僕だけ出たら、どう見ても変態である。
ならば先輩に連れ出してもらった方が良い。
「もしかして私がレジに行ってる間に目を開けちゃったりするの?」
「し、ま、せ、ん!!」
僕が一文字ずつ強調して言うと、先輩は笑いながら「ごめん」と謝る。
なんか僕と付き合い始めてから先輩の性格が変わった気がする。
いや、違うか。こっちが元の性格で、あっちの真面目な感じが偽物なのか。
まあ、どっちにしろ先輩が好きだからいいけど。
「買ったよー見る?」
「見ません!」
先輩は「冗談冗談」と笑いながら言うと、僕の手を引っ張って下着売り場から出る。
はあ、なんかどっと疲れた。
「あ、もうこんな時間!!」
先輩は腕時計を見ると、そう声を上げる。
僕も時計を見ると、既に5時半。
恐らくデパートの外ではだいぶ陽が傾いているだろう。
ん?
ふとアクセサリーショップが目にとまる。
そういえば今日は買い物に付き合ってばっかりで先輩にプレゼントとかしてなかったな。
「先輩、僕ちょっとトイレ行くんで、あのベンチで待っていてください。」
「りょーかい。」
僕は軽く嘘をついて先輩から離れると、さっきのアクセサリーショップに入る。
中には色々なアクセサリーが置いてあり、正直言って迷う。
「ん?」
あった。一個だけピンと来たのが。
そのネックレスは、鳥の羽のような細工がしてあり、真ん中にはキラキラとした青色の物が埋め込まれている。
流石に宝石ではないと思うが、十分綺麗だ。
きっと先輩に似合う。
値段は四万円か。この前、いとこの
僕はそのネックレスを買うと、すぐに出せるように鞄の上の方に入れる。
「ありがとうございました」と言う店員の声を聞きつつ、僕は店を出る。
そしてさっきのベンチに向かう。
「先輩、行きましょうか。」
僕がそう言うと、先輩は立ち上がる。
「そうだね、行こうか。」
そう言うと、先輩は僕に右手を差し出してくる。
「ほい、手。」
僕はその手を左手でとると、その指を絡ませる。俗に言う恋人つなぎというやつだ。
最初の頃は恥ずかしかったけど、最近は慣れてきた。
「じゃあさ、次はデパートの屋上に行こうよ。」
「屋上、ですか?」
「うん、この時間綺麗な夕日が見えるらしいから。」
なるほど。それは確かに見てみたい。
「それはいいですね。行きましょうか。」
僕たちはそのままエレベーターに乗り、屋上へといく。
これはいい感じにネックレスを渡すチャンスかもしれない。
「おお……」
思わず感嘆の声が出る。
それほどまでに日に沈みゆく街並みは美しく、感動的だった。
「ね?すごいでしょ?」
先輩はそう言って、こちらに微笑みかけてくる。
――ドキリ。
その笑顔は、さっきの夕日の何十倍、何百倍も美しく、綺麗だった。
「先輩。好きです。」
思わずそう言ってしまう。
先輩はこちらを見ると、顔を赤くしながら、
「私も好き。」
と言った。
「だから、少し寂しいかな。」
「え?」
「だって、大翔はいつまでたっても私のこと先輩としか呼んでくれないじゃん。」
先輩はそう言うと、背伸びをして、僕の顔に顔を近づける。
ふわりとした甘い匂いがしたかと思うと、僕の頬に柔らかい感触があった。
すると、先輩の顔が離れていく。
「ね、呼んでよ。私の名前。」
「流石に普段そんなこと言うのは恥ずかしいですよ。」
――でも、今日ぐらいは。
僕は先輩を抱きしめる。
その隙に鞄からネックレスを取り出すと、先輩の首に付けた。
「あ……」
先輩は、付けられたネックレスを見るとそんな声を漏らす。
「ありが…」
先輩の言葉を遮るように、僕はもう一度抱きしめると、その耳に小さな声で囁いた。
「大好きだよ。すみれ。」
――先輩の、いや、僕の彼女の名前を。
先輩は強くなくてもいいんです 海ノ10 @umino10
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます