未来の愛

12月。来愛君との約束の日。でも、面と向かって言いたくなかった。

だから、私は逃げた。これまでの来愛君との思い出を、胸に…。


4月。高校3年生になった私たちは肩を並べてクラス表を見ていた。

「未愛、同じクラスだぞ!!」

「え?あ、ほんとだ!」

 はしゃぐ来愛君の隣で私もうれしくて飛び跳ねていた。

「よろしくな。」

「うん!」

 今まで同じクラスなんてなかったからすごくうれしかった。


 私たちは1年生の時に知り合った。通学する路線が一緒で話がよく合ったのが始まり。それから毎日のように話した。どうでもいいことを話しているうちにお互いが大切な人になっていった。2年の秋に来愛君から告白されて恋人同士になった。その時はうれしかったな…。


 教室に入ってから、私は大切なことを思い出した。本当は言いたくないこと。

「あ、そうだ。来愛君、放課後ちょっと話があるんだけど…。」

「ん?どうしたんだ、改まって?」

「えっと、大事な話だから…。」

「そっか…。わかった。じゃあ、帰りな。」

「うん。」

 そう言って私たちはそれぞれの席に着いた。席が離れたのはちょっと寂しいな…。

「未愛、おはよ!」

「あ、萌花ちゃん、おはよー。」

 萌花ちゃんは小学校の時からの幼馴染。今回は同じクラスなんだ。うれしい。

「未愛、来愛にあの話した?今日するって言ってたけど…。」

 萌花ちゃんは心配そうにそう言ってくれた。

「放課後に話すよ。来愛君にもそう言ってあるよ。」

「そっか…。受け止めてくれるといいね。」

「うん。そうだね。」

そう言いながら俯いてしまう。ちょっと辛いことだから。

「そんな顔しないの!未愛が決めたことなんだから!」

「そうなんだけど…。やっぱつらいよ~!!」

「もう、私がついてるんだから大丈夫!」

 そんな話をしているとチャイムが鳴って、先生が入ってきた。ああ、もうそんな時間なんだ。

「あ、もうそんな時間?じゃ、またあとでね。」

「うん、ありがとね。」

 そう言って萌花ちゃんは席に戻った。放課後、憂鬱だな…。


 そんなことを思ってるうちに放課後になってしまった。

「未愛、帰るぞ。」

「あ、待って、来愛君!じゃあ、明日ね萌花ちゃん。」

「うん。頑張ってね!」

「うん!」

 萌花ちゃんにエールをもらって、私は来愛君のもとへ向かった。


「で、話って?」

 学校を出ていきなり言うからびっくりしちゃった。

「あ、えっと…そうだね、早く言わなきゃだよね。」

「ん?」

 私の言葉に来愛君は不思議そうな顔をした。

「あのね、私、県外の大学受けるの」

「え…?」

「お父さんたちがね、外の世界を見て学んで来いって…。教育方針なんだって。」

「そっか…。じゃあ、遠距離恋愛になるのか…。」

 少し寂しそうな顔をした来愛君に、できれば言いたくないことを私は言った。

「でね、ここからは私のわがままなんだけど…私が志望校に合格したら別れてほしいの。」

「…なんで?」

 今度はムッとした表情で言った。私だって、こんなこと言いたくないよ…。

「来愛君のこと、縛りたくないんだもん。」

「そんなことで…。」

「とにかくお願い!」

「…わかった。」

 私が頭を下げると来愛君は納得いかない顔で頷いてくれた。

よかった、これでいいんだよ。だって、来愛君はきっともっとかっこよくなる。私なんかより、もっといい人と出会える。それなのに、私が縛っちゃいけない。だから、これは正しいことなんだ。来愛君もいつかわかってくれる。そう信じよう。




帰りの電車を待ちながら、私は来愛君と約束した日の日記を読んだ。そして今日がその約束の日。私は志望校に受かって、県外へ行くことが決まった。来愛君には『ありがとう』というメッセージを送った。これでいいんだ。

そう思って俯いているといきなり腕をつかまれた。振り返ると来愛君が息を切らして立っていた。

「やっと、見つけた…。」

「なんで…。」

 だって、今日は日直で、遅くなるはずじゃ…。

「日直終わってメッセージ見て…走ってきた。足、速いだろ?」

 得意げに言う来愛君に、何も言えない。そんな私を見て来愛君は「仕方ないな」と言いたげにため息を吐いた。

「なあ、時間あるか?」

「…うん。」

「話があるんだ。」


 そう言って連れてこられたのは近くの公園。

「で、あのメッセージが来たってことは、受かったんだな?」

 重い沈黙の後来愛君はそう言った。その言葉に頷くと「そっか…。」と言った。

「おめでとう。もっと胸張っていいと思うぞ。結構名門じゃなかったか?」

「それでも、来愛君と別れるの、つらいよ…。」

「…。」

 私の言葉に来愛君は何も言わなかった。それでも、私は泣きながら続けた。

「バカだね…。私から言い出したのに…。でも…、本当は、別れたくなくて…。それだけ、わかってほしい…。またいつか、私のこと思い出したら、その時会ってくれたら、それでいいから…。だから…っ!」

 私がそこまで言うと来愛君は私を抱きしめた。

「よかった、未愛の本音が聞けて。」

「え?」

 来愛君はそう言うと少し体を離した。

「俺も、別れたくないよ。だから、約束、破らせてほしい。」

「そんな…。」

「だって俺たち、二人とも別れたくないんだぜ?だったら別れる必要ないじゃん。」

「でも、それだと来愛君のこと、縛っちゃう…。」

「未愛になら、縛られてもいいぞ。」

 私がずっと悩んでるのに、来愛君は笑ってそう言った。

「遠距離恋愛だろうと近距離恋愛だろうと関係ない。俺は家を継ぐために修行するけど車の免許取って会いに行く。だから、これからもお付き合い続けさせてください!!」

 真面目な顔になってそういわれて、嬉しかった。気付くと私は頷いていた。

「…っ!よかったぁ…。」

 安心したように来愛君そう言った。

「じゃあ、これからもよろしくな!」

「うん!」

 笑顔でそう言う来愛君に私も笑顔で返した。



 五年後、私たちは卒業旅行に来ていた。と言っても来愛君のではなく私の大学卒業のお祝い旅行。本当は行かなくていいって言ったのに来愛君がどうしてもって言って連れてこられた。何かあるのかな?

「うーん!楽しかった!!」

 連れてきてもらったのは有名な遊園地。パレードも見れてとっても楽しかった。

「そりゃよかった。」

 ホテルについてそう言うと来愛君は嬉しそうにそう言った。

「なあ、未愛。今日、何の日か分かるか?」

「え?えっとー…。」

 どうしよう、本気で分からない。来愛君はこんなこと言う人じゃないのにー!

「残念、時間切れ。」

「あう~。」

 意地悪に来愛君が言った。本当に何の日だろう…。

「正解は…。」

 そう言って来愛君が私の前に跪いた。その手には小さな黒い箱。

「俺が未愛にプロポーズする日!」

 来愛君は笑顔でそう言う。そして箱を開ける。その中には小さな輝きを宿した指輪が一つ。

「俺と、結婚してください。」

「…はい!」

 こらえきれない涙がポロポロ零れ落ちる。

「ったく、仕方ないなぁ。」

 そう言って来愛君は私の涙を優しくぬぐった。私は、この日を忘れないだろうな…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

色んな物語 雪野 ゆずり @yuzuri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る