第2話 一条伊織(2)

後から考えてみると、俺はなんで自分が奴-殺し屋ゴロシの沙霧さん-に自分のことを話したのか、分からない。

ただ、奴の目を見てると、話さなきゃいけねぇ気がしたんだ。


俺は今さっき俺の家を出てった奴に、自分が殺す嫌になった理由を洗いざらい話しちまったんだ。


***


「で?なんでなのよぅ?殺し屋になったのは」


俺は話そうとして一瞬ためらって、でも沙霧に目を見たらいつのまにか話し始めていた。


「俺、目つき悪いからよ、昔っから誰も寄り付かなかったんだよ。生まれつきだから仕方ねぇだろってんだ。」

「うんうん。でも君から逃げたくなる気持ちはよく分かるよ、僕。」

「おい、ざけんな。で、言い訳みたいに聞こえるかもしれんんが、その誰もが俺の顔が怖いってだけで近づかない状況に、俺は不貞腐れてグレた。」

「ふむふむ。それで口調も荒くなったんだね!」

「ちっ。まぁ否定はしねぇよ。で、俺には仲間が居なかった。要するにぼっちだったんだよ。」

「今もぼっちだけどね」

「テメェ殺される前に殺してやろうか。わぁってるんだよそれくらい。でも、こんな俺にも友達が1人いた頃があったんだよ。しかも女子」

「それはそれは…ぶふっ」

「あてめっ!失礼なこと考えただろ今!麗奈はそんな奴じゃなかったんだ。ほんとに、なんで俺なんかとつるむのか分んねぇくらいにいい奴でよ。どちらかと言うと清楚な感じの優しい奴だった」

「それは本格的になんで君と連むのか分かんないね」

「テメェに言われるとイラつくな。あいつが俺にとって唯一心を許せる奴になった。不幸の中にも幸せがあるもんだって思ったんだ」

「でも、その幸福は続かなかった」

「まぁ、話の流れとしてそうなるわな。それは突然だった」


いつも通り連む相手が麗奈しかいなかった俺は麗奈と一緒に渋谷に行って、家に帰ってくるところだった。

あん時も冬だったし、結構暗かったんだなもう既に。麗奈のうちは厳しくて、大学生にもなって門限なんてもんがあったから、6時くらいだったはずだ。

東京の一番人が多いあたりから離れて、少し静かになってきたところだった。


そこに、ヤバイ奴らがいたんだ。今俺のいる豚小屋の奴らが。


そいつらは俺たちを襲った。俺は不貞腐れてグレて、人に反抗してばっかだったけど、暴力なんて得意じゃなかった。

俺たちはやすやす奴らのアジトに連れていかれた。


日本みたいな先進国にはもうないと思ってたが、人さらって殺し屋に仕立て上げるなんてことがあるんだな。

目が覚めたらそこには山崎っていう豚野郎がいた。


俺はどうにか逃げようとして暴れたんだが、暴力で沈められた。

それだけならまだ辛くはなかったんだ。その後に来るものと比べたら。


山崎豚野郎は俺に究極の選択を迫った。

俺にピストルを渡してこう言ったんだ


「隣の娘を殺すか、自分が死ぬかだ。入ってる弾丸は一発。やれ」

「なんなんだお前ら!なんでこんな事する!麗奈を殺せるわけないだろ」

「じゃぁ、自分が死ぬ事だな」


迷いはそれほどなかった。麗奈の泣きそうな顔を見たら、俺も涙が溢れてきそうだったが、麗奈を殺すなんてあり得なかった。


「俺が死ねば、麗奈は解放されるか?」

「ああ、約束しよう」

「ちょっと伊織!」


俺は自分の決心が揺らがねぇうちにやっちまおうと思って、自分の頭にピストルを当てた。

手が震えた。俺はゆっくりと唾を飲み込んで、麗奈に微笑みかけてから、引き金を引いたんだ。


ピストルの発砲音が聞こえた。でも、俺は死んでなかった。

目に前には、麗奈の死体が転がってた。


ピストルの引き金を引いた瞬間に銃口を自分に向けたんだ。

俺は麗奈を殺してしまった。


その瞬間に世界に俺の居場所は無くなったんだ。


そのあと俺に残ってた道は殺し屋への道しかなかった。


***


「ふぅん。なるほどねぇ」

「なんだよそれ」


俺は精一杯のジト目で沙霧を見た。奴は愉快そうに笑った


「麗奈って子が死んじゃってたのは予想外だったな。人質に取られて、金作ってるとかだと思った」

「そうかよ悪かったなそれよりも酷い話で」

「そんなことが言いたかったんじゃないさ。こっちも問題。ちっとばかしやりにくそうだなってね」

「ん?何がだ」

「なーいしょ☆」

「うぜっ」

「ふふふ。話を聞かせてくれてどうもありがとう。なんとなくわかったよ、君の事情。僕は今此処で君を殺すことは辞めた」

「そうかい。そりゃ有り難いね」

「ただし、今此処での話だよ。これから1ヶ月間君のことを影から監視する。その間一回でも犯罪に手をかけたら、そこのアレが今度こそ君の心臓をぶち抜くってことだね」


沙霧はドアに刺さったまんまのナイフを指差して言った。


「じゃっ!僕帰るね〜。これから1ヶ月、気をつけて。本当に見てるからね〜」


沙霧は手で双眼鏡のように目を囲みながら、嵐のように去って行っちまった。


そんで、冒頭に戻る。

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殺し屋ゴロシの沙霧さん しらたま @shiratamaringo

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