おんぶだ・まい・夫

やましん(テンパー)

  『おんぶだ・まい・夫』

 ある日のこと、いったい何があったのか、何を思ったのか・・・


 『仕事なんかもう辞めた!』


 と、夫が宣言いたしました。


 いかに反論しても、説得しても、泣き付いても、がんとして受け入れません。


 これまでは、たいがい、わたくしの計画どおりに物事が進んできていたのに、こんなに夫がわたくしに抵抗したことは、まったく初めてだったのです。


 結局、さっさと仕事を止めてしまった夫は、なにやら、宇宙に向かって、毎晩オカルト的な趣味に没頭しております。


 しかたがない、こうなったら、再び仕事に復帰するしかないか。


 わたくしは、あまり気が進まないながらも、街の『公共スローワーク』さんに出かけまして、たまたま見た求人に、割と安易に応募しました。


 それは、この国でも、どちらかというと、明らかに下位の方の損害保険会社『ゴ・シュウショー・サマー保険』でした。


 最初はまごつきました。

 もともと事務機の会社の営業はしておりましたが、畑違いと言いますか、さっぱりと、ものごとが、わかりません。


 しかし、わたくしも『やる!』と言い切って始めたので、後には引きたくありません。


 就職して、一週間後くらいのある週末、街と、自宅のある村との境になっている『宇宙峠』を、やっこらやっこら、マイ・カーで登っていたところ、一人の宇宙人に呼び止められました。


『はーい。ぼくは宇宙人タローです。あなた、この星の人類を、支配したくないですか?』


「はあ~?」

 わくしは、あきれました。

 上司に、こてんこてんにやられた直後だったのも、タイミングというものが良くなかったのです。


「そりゃあ、もちろん。」

 わたくしはそう答えて、さっさと、その場から立ち去ろうとしました。


 すると、宇宙人タローは、あっさりと言いました。

『おっけー! じゃあね。』


 その翌週から、わたくしの快進撃が始まりました。


 まあ、あきれるくらいに、新規の契約が取れるではありませんか。


 訪問するところ、すべてが契約してくれるのです。


 しかも、何にもしてないのに、次々にご指名がかかるではありませんか。

 それも、この、星中からくるのです。


 来るものは、仕方ありません。


 わが社始まって以来の営業成績が上がり、さらに毎月毎月、どんんどんと上がります。


 おかげさまで、半年もたたない内には、もう、トップセールスマンになり、アッと言う間に、昇進もしてゆきました。


 収入の方も、あたかも龍が如く、倍々で増加し、以前の夫の年収を、軽く1時間程度の仕事で超えるようになり、その勢いはさらに止まりません。

 


 会社自体も、あきれるくらいに成績が伸びて、5年後には、大手の同業者をつぎつぎに吸収してゆきました。


 気が付いたら、わたくしはこの星最大の、保険会社の社長さまに、なっておりました。


 夫は、まあ、古い言葉で申せば、召使いのようなものでしたが、それでも相変わらず例の、オカルト的趣味はやめません。


 わたくしといたしましては、離縁して当然なのですが、やはり世間体というものもございます。

 まあ、こういうことになったきっかけを与えてくれたのは、確かに彼なのですから、追放するのも可哀そうだし、何か良からぬことを暴露されても面倒です。

 始末してもよいけれど、まあ、そこまでする価値も、ございませんでしょう。


 それでも、わたくしの勢いは止まらず、その10年後には、ついに世界政府の大統領に推薦され、みごと、その椅子を手に入れ、今日に至ったのでございます。


 反対派の大物は、ほぼ全員粛清してしまいました。


 考えてみれば、こんなに簡単に行く方が、明らかに、おかしかったのですけれど。


 そうして、今日という日が参りました。


 あの、宇宙人タローが現れたのです。


『やあ。お久しぶりです。いかがですか、支配者の椅子は?』


「まあ、いいです。」


『そりゃあ、良かった。ときに、ぼくの母星から召喚指令が来ましてね、仕方がないから帰ることにしました。で、財産整理が必要になりました。』


「財産整理?」


『はい。なにしろ、あなたに支配者になってもらうためには、それ相応の資金を使ったものですから、済みませんが、ここで清算させてください。』


「清算って、どうするというのですか?」


『なに、簡単ですよ。我が星は、政治家の大失敗やら、自然災害やらいろいろあって、環境が破壊されたり資源が枯渇したりと、まあ、かなり危ない状況なのです。そこで、あなたを支配者にした代金と、その利息として、この星の、海のお水全部と、地下資源の90%をいただきます。それだけです。はい。なにせ、いまは、あなたが支配者で、この星の持ち主なのですからね。』


「はあ? なにを、ふざけたことを、そんなこと、できるわけがないでしょう。」


『いえいえ、大丈夫。我々の技術をもってすれば、簡単ですから。』


「戦います!」


『無理無理! あなた方には、まだ人工衛星を打ち上げるのがやっと、程度の技術力しかありません。それに武器だって、せいぜい核爆弾くらいしか持っていないでしょう。問題外です。では、さっそく実行いたします。』


 わたくしは、《タロー》を逮捕するように命じましたが、相手はどうやら実体がないらしくて、そこにいるのに、まったく手が出せません。


 しかし、《タロー》の言い分は、正しかったのです。


 全長1000キロにも及ぶ巨大な宇宙船が、宇宙空間からたくさん現れました。


 そうして、海や川のお水を、どんどん吸い上げてゆきます。


 何やら、わけのわからないロボットたちが、地下資源も、どんどん吸い上げます。


 ストローで、コップの中身を吸い上げるみたいな感じでございました。


 わが星の軍隊が攻撃いたしましたが、まったく歯が立ちません。


 核ミサイルも、ぼんぼんと撃ち込みましたが、まるで効果がないうえに、自分の星をどんどん汚すばかりだったのです。


 『いやあ、終わりました。どうもありがとう!!』


 宇宙人タローは、ご機嫌に、そう言って、消えかけました。


 『ああ、そうそう、ご主人は、我々に、ずいぶんと協力してくださったので、保護して連れてゆきます。置いといても可哀そうだし。じゃあ、お元気で。』


 「ああああ、待ってください! あなたがた、いったい、どこの星の宇宙人なんですか?」


 『あれ、言ってなかったでしたっけ? ぼくたちは、銀河系内太陽系の『地球』から来ました。では、さようなら。』


 《タロー》は消えました。


 「『地球』って、どこ?」


 しかし、わたくしは、さらに、こう、つぶやきました。


「絶対に許さない。必ず、復讐する! いずれ、おなじ目に合わせてやるわ。」












 


  


 










 

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 おんぶだ・まい・夫 やましん(テンパー) @yamashin-2

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