【仮装コメントパーティ】人類のアカツキ
ビト
【仮装コメントパーティー】人類のアカツキ
少女蝕む英雄の魂
あの、真っ赤に染まる背中が生涯忘れられない。男の握る拳の硬さを覚えている。
運命を噛み合わせたヒーロー。廻る歯車が情熱をタギらせる。
「大丈夫だ。俺に任せろ」
その力強さは全てを掬い。人類種の重みを一手に担い、男は大地を蹴った。
(ああ、そうだ――『
その背中を追い掛け、憧れ、焦がれ。
かつての少女は目を醒ます。
◇
少女は親の顔を知らない。施設で育った彼女が行き着いたのは、何の因果か戦場の最前線だった。
ぱちりと開いた目が捉えたのは真っ白な天井。全身に群がるコードがくすぐったい。ベッドの脇に見えるのは点滴の栄養源か。その脇でうつらうつらと舟を漕ぐ大男を見て、少女は現実に戻ってきた。
「あれ、アタシもしかして生きてる……?」
「目覚めたか……っ!」
声に反応したか、男の身体が跳ねた。少女は身体を起こそうとしたが、妙にその動きが鈍くて諦めた。
「無理をするな。丸三日眠りっぱなしだったんだ」
「あ……何言ってんだオッサン」
眼球をぎこちなく動かして視界を広げる。透ける程薄い手術着は少女の豊かな凹凸を忠実に示し、その向こうに厚く巻いた包帯を写す。少女は若干頬を染めながら身じろぎをした。
「どうなった?」
「凌いだ。が、無事生き残ったのは俺たち二人だけだ」
そう、か。
少女は呟いた。現実感が無かった。自らの肉体はズタズタに引き裂かれ、全身の骨と臓器は押し潰されたはずだ。なのに、自分はまだ生きている。
「アタシのサックは……『
「よく聞け」
少女は自分の胸に鼓動を感じた。心臓の鼓動だ。しかし、常に無意識下にあるソレは、少女の身を、心を焦がせる。
「お前の
胸に感じる熱い鼓動。それは異物感では決して無く、信頼し切った確固たる絆を感じた。
「アタシの、中に……?」
「お前は、臨界者の領域を超えた。言うならば融合者。お前が今現在持つ圧倒的な力だ」
力、即ち強さ。それは少女が死ぬほど欲し、事実死んでいたはずのもの。
「……そっか。生き残ったのはアタシとオッサンだけ、か……あ?」
「どうした?」
「いや、オッサン、アンタ……っ!!」
嫌になるほど頼れるあの男が、憧れ焦がれ、目指したあの男は。その両目を固い包帯が閉ざし、消耗を極めた表情を極めていた。
「大したことは無い。お前の方が重体だ」
重傷ではなく、重体。それどころか致命傷。
「生き抜いてくれて、本当にありがとう」
らしくない殊勝な言葉。
「俺の目は、今まで通りとはいかないが、いずれ見えるようになるらしい。安い代償さ」
それほどまでの死闘だった。少女はようやくクリアになった記憶を噛み締める。
「ごめん。不甲斐なかった」
「謝るな。俺の責だ」
実際問題。齢十五の少女にこんな過酷な戦いを強いてきた。責など一ミリだって負わせられない。男の意地だった。
「でも……アンタがこれで、これから人類はどうすれば……っ!」
「それは考える奴がちゃんと居る。だからお前はきちんと休め…………いや」
もう戦うな、と男は言った。
「俺はもうこの戦いを降りる。失ったものが多すぎる。だから、お前もこれ以上身体を張ることは無い」
一抜けだ、と男は笑った。
「アタシは――戦うよ」
少女は、にっかりと笑った。
「『
「『
「それでも、あの背中は、生き様は死んじゃいない。張り続けるよ、ヒーローの生き様を」
それに、と。
「鼓動を感じるんだ。『
だから今度はアタシが戦う。
そう宣言する少女に、男は手を伸ばす。まだ目はろくに見えない。だが、少女は示し合わせたかのように必死に頭を差し出した。
「強く、なったな…………」
男が少女を撫でる。問題があるとしたら、少女は頭を伸ばし切れず、男は目測を見誤り、別の部位を撫でていることか。
「オッサン、そこは胸だ、おっぱいだ……! やっぱりロリコンじゃねぇか!!」
男はすまなそうな顔をし、手を止めない。少女も微妙に嬉しそうにしながら身を揺らした。こんな姿見せられたものではないが、この男は今目が見えない。
「いや、でも……ちょっと待って」
「……どうした?」
男が手を止めて少女を見遣る。彼女は気まずそうに、もじもじと足を動かしながら言った。小声で。
「いや、ちょっと………………………………トイレ」
ずっと繋がれっぱなしだったのだ。無理は無い。男は豪快に笑った。周りを元気付ける時の癖だった。
「心配するな。というか、我慢するな。カーテルっていう便利なものがあってだな?」
少女は気付いてしまった。自分の股間から伸びる細い管を。足元に吊される袋の中身を。
「うむ。健康的な色で結構」
「てめぇ実はもう見えてんだろっ!!」
◇
その日、某病院にけたたましいナースコールが鳴り響いた。
実は見た目以上に重傷な大男が、同じく死に体の猛獣少女に噛み殺されようとしていた。羞恥と怒りで顔を真っ赤にしながら泣き叫ぶ下手人に、オネェのナースはただただ無言で慰めた。
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