日本美容整形士になるための必須スキル

ちびまるフォイ

しっかり勉強してあなたも美容整形士!!

「はじめまして、私は日本の美容整形士です。

 今日はこちらのリアス式海岸を整形しにまいりました」


漁港に似つかわしくないスーツの男を見るなり、

猟師たちは目を丸くしていた。


「美容整形士だぁ? 何言ってんだ。冗談ならよそでやってくれ」


「そうだそうだ!! 形が変わっちまったら魚が取れなくなるだろ!」


地元の漁師たちは不満を漏らし、

日本整形士の持ってきた国からの令状にも醤油をかけてしまった。


翌日、早朝に猟師がやってくると仲間内でまた笑った。


「なんでぇ。日本を整形するとか抜かして何も変わってねぇぞ!」


「きっと昨日のがこたえたんだろうな」


「そうにちげぇねぇ。スーツ着るような男は心が弱ぇんだ」



「いえ、終わりましたよ」



「げっ! お前さんは昨日の!」


「なに勝手に整形してやがんでぇ!」


「リアス式海岸は俺たちのものでもあるんだ!」


日本整形士は最新版の地図を見せた。


「こちら、さっき本社googooleから取り寄せた最新版の地図です」


「な、なにぃ!?」


地図の中にはリアス式海岸のギザギザがきれいになだらかにされていた。

日本の海岸はつるんと整った形になっている。


「なんてこった! お前さん、なんてことしてくれる!!」


「このくぼみがあるからこそ、俺たちは漁業ができてたんだ!!」


「勝手なことすんじゃねぇ!!」



「まあ見てください」


美容整形士は何か策があるようにしばらく待つよう伝えた。

何を待つのかわからないが、何もしていないのに漁港に訪れる人数が増えていった。


「な、なんでぇ? いったい何が起きてやがる?」

「外国人がめっちゃ来とるでよ!」

「これが整形の効果なのか!!」


「ええ、お分かりいただけましたか?」


訪れる観光客の手にはガイドブックとその国の言葉で

『もっとも形が美しい国』と書かれている。


「キレイな女性は男性から言い寄られるでしょう?

 国も同じです。キレイにすれば、それだけ人が寄ってくるんです」


魚を取るだけの作業場だった漁港が、

今では観光客が押し寄せる大人気の観光スポットと生まれ変わった。


最初は否定的だった漁師たちも、

おろしたての魚を食べてもらえる喜びには勝てなかった。


「美容整形士のあんちゃん、本当にありがとうな!」

「あんたのおかげですっかり人生ハッピーだよ!」


「ええ、私は土地を美しくするほかにも

 その土地に住まう人の心を美しくするのが仕事ですから」



日本美容整形士の噂はまたたく間に広がり、ついに国から正式な依頼が来た。


「……というわけで、北海道を丸くしてもらいたい」


「丸く、ですか。なかなか手の込んだ整形をしますね」


「聞けば君は腕利きの土地美容整形士だと聞く」


「いえ、パソコンが得意なだけの普通の人間です」


「もし、君が北海道を美しい丸の形にしてくれれば

 そうだなぁ……宇宙旅行をプレゼントしようじゃないか」


「宇宙……! それは何よりもうれしいですね。

 数百万円もらえるよりもずっと嬉しいです」


「やってくれるかね」


「挑戦させてください!!」


日本美容整形士はついに北海道の球体化をはじめた。


これまでの土地美容整形とは異なり北海道は面積がでかい。

それだけ関わる人間も増えて行ってしまう。


「これは大仕事になりそうですねぇ」


日本整形士はぐるりと北海道を回って、地元住民と密に話を聞いて回った。

のちに、この一大事業が取材された時に整形士は語っている。


『ええ、日本整形といっても形を整えて、ハイ終わりじゃないんです。

 むしろ大事なのは、その土地にあったアプローチを考えることなんです。


 地元住民の話を聞いて、どうすればいいのかを考える。

 そうして寄り添った整形をしていくことが私たちの仕事です』


たっぷりと時間をかけて仕事をしていた整形士だったが、

せっかちな国の役人はすぐさま結果を求めて連絡した。


「おい! まだ北海道ツアーしているのか! いつになったら着工するんだ!」


「いいですか。その土地に住む人のことを知るのが、

 この仕事で最も大事な部分なんです。ここは短縮も省略もできません」


「貴様、約束通りにできなかったらただじゃおかないぞ!

 少しでも首相の気に食わない形に整形してみろ。

 お前だけじゃなく家族の首も飛ぶからな!!」


「あなた方は、私の成功報酬の宇宙旅行の準備だけしてくだされば結構です」


結局、日本美容整形士からなんの連絡もないまま最終日。

本当にこれでうまくいくのかと疑い始めたころ。


「首相! 首相見てください!! これが今朝のマップです!!!」


「見せてみろ!!」


マップを見ると、なんと注文通りに北海道は美しい正円になっていた。

あまりの美しさに海上に浮かぶ日の丸に見間違えるほど。


「首相、お気に召していただけましたか?」


「これはすごい!! 予想以上の出来だよ! 大満足だ!!」


首相も大絶賛。

あまりの美しさに整形後の北海道に人が訪れる。


まるでオリンピックでも開かれているかのような大騒ぎに沸いた。


「いやぁ、日本整形士くん。キミの技術は恐れ入ったよ」


「光栄です。ありがとうございます」


「君のおかげで北海道に訪れる人が増えて、好景気になったしね。

 たかだか日本を整形しただけでこんなにも人気になるとは思わなかった」


「人間は美しいものに寄っていく動物ですから」


「では、これが約束の宇宙旅行だ」


「ありがとうございます」


「今回の君の活躍は全世界が注目している。

 ちょうどこの後テレビの取材陣も来ているからインタビューを受けるといい」


日本美容整形士は首相官邸を出た直後に行われた取材に丁寧に答えた。

取材の映像は全世界に配信されて、今度は世界から依頼が届いた。


「お願いです!! うちの国のこのでっぱりを消してください!」

「たのむよ、うちの国のココをかっちょよくとがらせてくれ!」

「あの、私の国のこの部分だけを大きくするってできますか?」


「ええ、もちろんですよ。お任せください。

 ただし、宇宙旅行が終わってからね」


美容整形士は多忙を極めていたものの、どの依頼も断らなかった。

この親切さがますますたくさんの人を呼び込んだ。


気が付けば宇宙旅行の当日。


シャトルの打ち上げも成功し、整形士は憧れていた無重力を体験した。


「おお、これが本当の無重力!! すごいなぁ!」


そこに他の宇宙船クルーのエリックがやってきた。


「やぁ、君が日本を整形した腕利きの整形士だね」


「そうだけど、なにかな?」


「実は俺の国もぜひ整形してほしいんだ!

 あなたにそれを頼むために、俺もこのツアーを応募したんだ!」


「君の国はどれ? 宇宙船の窓から教えてよ」


ちょうど宇宙船は地球の周りをまわっていた。

青く丸い地球にいくつもの整形しがいのある国が置かれている。


「あ! あれだ!! あれが俺の国だよ! ……あれ?」


自分の国を探すために窓にかじりついていたエリックがつぶやいた。


「エリック、どうかしたの?」


「なぁ、美容整形士さん。ちょっと聞いていいかな。

 土地美容整形士になるために一番必要なスキルはなんなんだ?」


「しいていうなら、PCスキル?」



「それじゃもう1つ聞いていいかい?」


「もちろん、なんでも聞いてくれ」




「なんで、googooleマップで見たときの形と

 実際に宇宙船で見たときの国の形が違っているんだ?」



「それはね、プチ整形だから元に戻ったんだよ。きっとそうだよ」



美容整形士はこれ以上聞かれないようにするため、

エリックの乗った宇宙船区画を切り離した。

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