014

「はい、結城ですけど・・・どちらの方ですか?」

まったく面識がないのだが、相手はよかったぁっと安堵するかのようだ。僕のことをさがしていたのだろうか。

「いやー、君とちょっと話をしてみたいと思っていたんだよ。僕のことはわかるかな?」

そう言いながら近づいてくる男は右手をポケットにいれたままジリジリと近づいてくる。なんだろう、異常な違和感とプレッシャーを感じる。本来ならば適当に流して背を向けて立ち去りたいところなんだけど、ここで背中を見せてはいけないと本能的に感じる。

「あの、ちょっと、いいですか?」

「ん?どうしたんだい、結城君。」

「ちょっと僕の中には記憶にないんですけど・・・今日はもう遅いですし、お話は後日でもいいですか?」

僕も少し後ずさりながら、それでも目は離さずにいる。

「んー、できれば、僕は今日中に片を付けたいんだが・・・どうしたんだい?結城君。」

やばい!なんかわからないけどやばい感じがする。ベルもいないこの状況であの右手のポケットに刃物でも入っていたら・・・そんなことを思わせるような空気を男からビンビンに感じる。

「ちょっと、それ以上近づかないでもらえますか?あと、右手をポケットから出してください。不審なんで・・・。」

すると、男はピタっとその場に止まり、ニタっと笑う。右手がポケットから出された。そこには拍子抜けにも何も持ってはいなかった。

「警戒しているんだね、最近事件があったらしいじゃないか。暴行魔みたいのがいるってね。それと勘違いされちゃってるのかな。」

「あ、いえ、そういうわけでは・・・あ、でもそれって」

それって深山のことを言っているんだろうか?だとしたらなんでこの男が知っているんだ!?

僕は十分に警戒をしながら距離をとる。武器とかを持っているわけではなさそうなので、一撃で殺されるなんてことはなさそうだが・・・。

だけど、男は表情をさらに歪めて笑う。

「いやいや、いいんだよ?正解だ!その警戒で正解だ。」

「は?」

その瞬間、男は尋常じゃないスピードで僕の目の前までやってくる。そして、一掻き。服の前面がビリビリに引き裂かれてしまった。なんとか皮一枚の所で助かったようだ。

「あらら、浅かったな・・・じゃぁ次はもっと深くいくよ」

「ちょっと・・・まって・・・」

僕は無我夢中で防御態勢を取る。だが、それも無駄だろう。よく見ると男の右手はクマのような爪が生えていて、その爪は鋭利の刃物のように鋭くなっている。たとえ体を腕で守ってもその腕は切り裂かれてしまうだろう。僕は心の底から恐怖した。嫌だ!なんで僕がこんな目に合わなくちゃいけないんだ!

男は一息ついて同じように僕の目の前へ・・・そして、一掻き。僕も夢中でその手を避けようと腕を出す。

ザ・シューン!!

「ぐあぅ・・・」

血を流しているのは男のほうで僕は・・・無傷・・・のようだ。

「結城君・・・なんだいその力は?まるで・・・」

男の右手からは何度も切り刻まれたかのような傷が出来ていて、そこから血がだらだらと流れている。

「これくらいで引くわけには・・・くっ」

「使いの契約者めが、ワタシの食糧に手を出すとは見過ごすわけにはいかないな。」

僕の後ろにはベルが立っていた。ていうことはさっき攻撃を防いでくれたのはベルがやったのか?

「ふふ、僕のことがわかるんですか?変わったお嬢さんだ・・・今日の所は引かせてもらいますよ。」

そう言い残して、男はいなくなってしまった。

僕は安心感からかどっと座り込む・・・そして訪れる痛みと苦しみ。

「お前はちょっと目を離すと、面倒なことに巻き込まれて・・・」

ベルがイライラするかのように言ってくるが、それどころじゃない。この苦しみは・・・魔素!?

「ほう、さっきの相手の攻撃はとっさに力を使ってカウンターしたのか。最初に教えた空を飛ぶ原理を応用したんだな」

そんなものを使った覚えはないのだが、ベルがやったのではないなら僕がやったんだろう。その証拠がこの痛みと苦しみだ。魔法みたいな力は人間の僕には毒となる魔素を作り出すということがありそれが体内に残ると体を蝕み殺すというのだから。

「まったく、ワタシが来なかったらこのまま死んでしまうんじゃないか?まったく世話のかかる・・・」

そう言ってベルは僕の体から魔素を吸い上げる。痛みが快感へと変わり、訪れる疲労感。とにかく僕は助かったらしい。

僕はそのままベルに抱えられて自宅へと戻ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ワタシノナリタイモノハ @taruto777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る