013

深山の部屋はずいぶんと綺麗に整頓されていて汚れがまったくないようだった。僕の部屋とは大違いだな。

「まぁ、適当に座ってよ。今、お茶でも持ってくるからさー。」

そう言って、深山は手慣れた感じで下に降りていった。僕と飯田は適当に・・・飯田は深山の机の椅子に僕は床にでも座らせてもらった。

「なんか・・・綺麗に整頓されているんだね。男子の部屋って初めて入ったんだけど・・・もっと汚いイメージがあったわ。」

「それはひどい先入観だね、委員長。まぁ、僕の部屋はこんなに綺麗ではないからその先入観は間違ってはいないかもしれないけど」

「ふふふ、結城君はそういうタイプなんだね。じゃぁ、今度私が掃除しにいってあげようか?」

ドキっとするようなことをさらっという。

「あー、まぁ、機会があれば、頼むね。」

「なにを頼むって?」

深山が割って入ってくる。手にはペットボトルのお茶が3本。こんなのしかなかったぁ、なんて言いながら渡してくれる。

「それで、飯田は結城に何を頼まれたのかな?」

「秘密でーす。」

飯田がおちゃらけて見せる。飯田は本当に可愛い女の子だと思う。

「ふーん、ま、いいけどね。で、どうしたんだ?今日は急に家庭訪問みたいに押しかけてきて。」

「あ、そうそう。先生からね。深山君のお見舞いに行ってきてほしいって頼まれたの・・・それで・・・ね。」

飯田はなにか言いづらそうな感じで僕をチラリとみてから続ける。

「深山君、襲われたっていうのは本当なの!?」

!!!?

深山が襲われた?飯田は確かにそう言った。深山を見てみるとあーって困ったような表情をみせてなんて言おうか考えているようだ。

「おい、深山?襲われたの!?だれに?いつ?」

僕は深山の返答が待ちきれずに問い詰めるように聞く。

「ちょっと、結城君。落ち着いて。ほら、お茶でも飲んで。」

「飯田は先生からどこまで聞いた?」

深山が慎重に飯田へ聞く。

「あ、私が聞いたのは深山君が怪我をしたから今日は学校を休む。でも、なんだか人に襲われたかららしいんだけど警察へは届けないって言ってる。その辺の事情もそれとなく聞いてきてほしいっとか。あとはー、怪我の状態によっては学校側で届けを出すからとか。そんな感じ。」

「なるほどねー。まぁ、そこまでわかってるなら、そういうことなんだけど。」

「そういうことってなんだよ。ちゃんと説明してくれよ。」

「わかったわかった。今日は随分と結城もアツくなってるじゃん、ほら、お茶でも飲んで。」

「ふふふ。」

飯田が笑う。

「じゃぁ、簡単に説明すると、昨日、飯田と朝の打ち合わせをしたあとの帰り道で急に後ろから殴られたんだ。たぶん・・・棒かなんかでやったのか、なかなかの衝撃だったな。まぁ、俺はこう見えてスポーツマンで体も鍛えてるから重症とまではいかなかったけどな。」

「・・・そうなんだ。私と別れたあとにそんなことが」

「で、倒れた俺に数回殴りを入れたあと、俺の顔を確認して去って行ったって感じかな」

「顔を確認?じゃぁ、深山は相手の顔を見れたんじゃないのか?」

深山はお手上げみたいなポーズをとって・・・

「残念ながら、顔は見てない。1発目をもらった時に倒れた拍子に目に砂みたいのが入って目は見えてなかったんだ。」

「え?じゃぁ、深山君はなんで相手が顔を確認したのかわかったの?」

「ああ、そいつがぼそっと『こいつじゃなかった』って言ってるのが聞こえたからさ。要するに俺は誰かと間違われてやられたってこと。」

「そうなんだ、じゃぁなんで警察に届けないの?」

「それはー、まぁ、俺も怪我をしたといってもそんなおおごとじゃないし、捜査協力とか面倒だし?それでも念のために今日は休めって母親がうるさいから今日は二人には悪いけど休ませてもらったんだ。」

「そうかぁ、でも深山君が大怪我したんじゃなくてよかったよー。もうクラスの女子がワーキャーしてたよ?」

「俺様にはファンの子が大勢いるからなぁ。モテるっていうのは大変なことだぜ」

「ふふふ、そうね。」

「それにしても結城。朝からクラスのマドンナ飯田委員長と保健室にふたりっきりっていうのはどうだったんだよ。」

「おま・・・な、何言ってんだよ!」

「結城君は深山君と違って紳士だから私にはまったく手も触れないんだから。」

「え!?ええ?」

「結城、それじゃーモテないぞ?せっかく不本意にも二人きりにしてやったんだからなんか爪痕の一つでも残してくれないと。」

「ふふふ、爪痕ねー。」

「お前ら、二人してなに言ってんだよ。まったく。」

こんな軽口を叩くようなら深山は本当に大丈夫そうだ。おおごとにならなくて本当によかった。

それからしばらく3人でくだらない世間話などをして僕たちは深山の家を後にした。


僕は深山が襲われたっていう話を聞いたあとだったし念のためっていうことで飯田を家まで送っていくことにした。帰り道、さすがに人通りも減ってきてるのもあってか、飯田は僕の隣を歩いている。送っていくって言って後ろを歩かれていたら送っていく意味もないしね。

「でも、本当に深山君がなんともないみたいでよかったねー」

「そうだね、予想以上に元気だったね。」

「うふふ、そうね。・・・ねー、最近、私たちってずっと一緒にいるね。なんだか付き合ってるみたいだね。」

「なんだよ、深山の家の話の延長戦か?あんまりからかうなよ。」

「結城君はひどいなー。からかうだなんてさー。」

確かに僕たちは傍からみれば普通のカップルに見えているかもしれないな。飯田って僕のことをどう思っているんだろう?最初は同情心から親切にしてくれているだけかとも思っていたんだけど・・・少しは好意を抱いてくれているのだろうか?そんなことを考えると胸のドキドキが止まらなくなってきた。

「ねー、結城君。今はさー、なんか色んなことがあってゴタゴタしてるじゃない?これらがぜーんぶ片付いたら・・・」

「・・・」

ガサガサ!!

「キャッ!」

飯田が物音に驚いて僕の腕にしがみつく。柔らかい感触が僕の腕に当たり・・・どうしたらいいものかとテンパる。

「なんだー、風で木が大きく揺れただけだねー。」

「・・・・・・」

「結城君?」

「あ、いや、うん・・・そうだね。」

「・・・あ!」

飯田は気づいたみたいでばっと離れる。うーん、惜しいな。

「ゆ・う・き・く・ん?」

「な・なにかな?」

「なんかー結城君ってえっちなんだねー・・・・・・・・・結城君のえっち」

「いやいや、普通だよ?普通!!」

やばい、なんかやばいくらいの不信感が募ってる。ちょっと触れたくらいなのに・・・ていうか僕からくっついたわけじゃないのになんで僕が不信感を持たれなきゃいけないんだろうか。

「ふーん・・・まぁ、いいけど。えっとーなんの話だっけ?えっとー・・・」

そんなことを話していたら飯田の家に着いたようだ。その家はなかなか立派でお嬢様ですか!?と言わんばかりの豪華さがある。隣の家と比べても雲泥の差があるな。

「あーあ、着いちゃったね。結城君が私のおっぱい、おっぱいって言ってるから言いたいこと言えなかったよ。」

「そんなこと言ってないし!」

「ふふ、良いツッコミね。私と一緒の時に襲ってきたらなんとか二人で捕まえてやろうかと思ってたけど、そういう時はやっぱり来ないものね。」

「まぁ、そうだね。僕としては一人のときでも二人の時でもそういうのには巻き込まれたくはないんだけど。」

「そう?じゃぁー、結城君は私と一緒にいて危ないっとか嫌な思いをするかもーってときは守ってくれないのー?逃げちゃうんだー」

「いやー、僕は深山みたくスポーツマンでもないから戦っても勝てないんじゃないかなぁ。」

「ふーん」

「・・・なに?」

「でもー、・・・嘘でもいいから今のところは守るって言ってほしかったなぁ・・・なんて!」

そう言って、飯田は玄関に走って行ってしまった。そして、振り向いて・・・

「じゃぁ、送ってくれてありがと。結城君も帰り、気を付けてねー」

「・・・ああ。」

そう言って飯田は自宅へと入っていった。

僕はこの帰り道ドキドキが止まらなかった。たぶん、飯田のことを好きになってしまっているんだろう。飯田は僕のことをどう思っているんだろう?嫌われてはいない自信はあるんだけど、友達っていう枠を超えるほど僕に好意を持っているのかはわからないな・・・。こういう話って誰かに聞いてもらいたいんだけど、僕にはそんな相手はいない。そういえば、ベルは最近一体なにをしてるんだろう。なにかをやっているのはわかるんだけど、全然教えてくれないし・・・。

ま、どのみち帰ったら直接聞けばいいことか。いつまでも飯田の家の前に立っているのも怪しいし、さっさと帰ろう。

そう思って、歩き出して数分後・・・。


「君が結城君かい?」


後ろから声を掛けられた。誰だろうと振り向いたらそこには見知らない男が立っていた。







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