012
・・・なんだか気まずいな・・・。朝の気まずさよりもはるかに僕と飯田の間で変な空気みたいのが流れている。さっきの飯田とのやりとり・・・改めて思い出すとなんだかとても恥ずかしいやりとりだったと感じる。それはたぶん僕だけじゃなくって、飯田も感じているんだろう。飯田は僕と並んで歩くわけではなく、数歩後ろにいる。深山の家は飯田が知っているので、途中でそこ、右っとかって指示があるくらいだ。横に並んでいないせいか会話はまったくない。これじゃ、指示に従って歩かされている訓練兵と教官みたいだな。
「そういえばね、私のおにいちゃんの話って朝にしたでしょ?」
飯田が後ろを歩いたまま話しかけてくる。僕は距離感は変えずそのまま答える。
「ああ、確か・・・最近ちょっとうざいっていうおにいちゃんだったっけ?」
「うーん、そうなんだけど、うざいっていうところだけ強調されて覚えてるんだね。」
顔は見えないが笑っているのかな?
「私のおにいちゃんね、うざいっていうよりは最近は変なんだよね・・・。」
「・・・変?」
「うん。・・・あ、このままでごめんね。・・・なんていうか、こう・・・性格が荒くなったっていうのかな。あ、私には優しいんだよね。だけど・・・」
飯田は言葉を詰まらせながら言う。
「男子とか・・・最近は女子もかな?誰かと仲良くしているところを見かけたりすると、急に問い詰めてきたり、怒ったりとか・・・。変・・・だよね?」
「それは・・・急になの?」
「割とそうかなぁ。ほんと、どうしちゃったんだろう。・・・あ、だからねこうやって帰ってるときとかも、見られたりすると大変になっちゃうかなって。」
飯田は飯田で色々と悩みもあるんだな。きっと僕に迷惑を掛けないように気を使ってくれているんだろう。それにしても男子だけならやきもちっていうのが有力なんだけど。
「飯田が知らない男と仲良くするからやきもちを焼いてるとかは?」
「うん、確かにそれはあると思うんだけど、女子とでもやきもちって焼くものなのかなぁ。あ、結城君はどうだったの?妹さんに仲のいい友達ができたりとかしたらやきもちって焼いたりしてた?」
やきもちか・・・。美羽がいたときにそんなことを思ったことがあっただろうか。美羽がいなくなってからずいぶん経つけど・・・自分がどう思っていたかなんて思い出せないな・・・。
「うーん、どう・・・かな?その時にどう思ってたかはいまいち思い出せないけど、今考えて・・・女子にはやきもちとかは焼かないんじゃないかなぁ。」
「普通、そうだよね・・・」
「よくわからないけど、飯田のことがなんか心配になっちゃってるとかもあるんじゃない?」
「心配ね・・・それならいいんだけど。」
その後は、特に会話もなく指示されるがまま、深山の家へと向かった。
ピンポーン・・・。飯田が玄関のチャイムを鳴らす。さすがにここで距離を取っているのは不自然なので僕は横に並んでいるのだが、それすらも飯田はちょっと抵抗があるみたいだった。そんなにお兄さんに見られるのが不安なんだろうか?
しばらくして・・・
『あ、はい。どちら様でしょうか?』
インターホンから女性の声が聞こえる。母親か?
「あのー、高校の同級生で学級委員をやっている飯田といいます。深山君のお見舞いにきたのですが・・・」
『あらあら、それは、わざわざ・・・ちょっと待ってね。』
「・・・なんか、ずいぶんと若い女性の声だったね。お母さんかな?」
ひそひそと僕に言う。女子ってやっぱりそういうのが気になるものなんだな。確かに声の印象はちょっと若い感じがしたけど・・・。
ガチャ!
「あー、悪いねー飯田委員長。お見舞いだなんて・・・お!結城もきてくれたんだ。サンキュー。」
深山が随分と陽気に出てきた。パジャマっていうわけでもなく、普通に洋服を着て、怪我人っていう感じはしないな。なんだ、ずる休みなのか。
「深山君、思ったより元気そうだね。怪我の具合はどう?」
「ああ、怪我の件か・・・二人ともちょっと上がっていきなよ。」
深山はそういうとスリッパを用意してダイニングへ一声掛けてから2階の階段へと上がっていく。
僕たちもせっかくだし、と深山について部屋にはいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます