011
あれから続々と登校してくる上級生と自然にすれ違うように階段を下りて自分達の教室へ向かった。時間も時間だから生徒もチラホラといるようだったので、念のため僕たちは別々に教室へはいることにした。朝から一緒にいるなんていうのは変な噂がたってしまう原因になるからだ。しばらくすると始業のチャイムが鳴り、ほぼ同時に担任の先生が入ってきた。周りを見渡すが深山の姿がない。休みなんだろうか?
「ホームルームを始めるぞー。」
いつも通りの事務連絡と今後の予定の話をしている。だけど、その中にはシュレッダー落下事件のことは一切含まれていなかった。教師陣で触れないほうがいいとか決め事でもあったのだろうか・・。
「・・・まぁ、今日はこんな感じで・・・それとー、飯田委員長。」
「はい。」
飯田は急に呼ばれて動揺している。
「1時限目の授業が終わったら職員室に来てくれるか?ちょっと頼みたいことがあるんだ。」
「・・・わかりました。」
返事を聞いた先生は教室からそそくさと出ようとするが・・・。
「先生ー、深山君は今日休みですかーー?」
周りの女子から声があがる。やっぱり深山は女子に人気があるようだ。先生が来るまでに深山がいないことで教室内がザワザワしていたぐらいだからな。まぁ、主に女子からだけど。
「あー・・・深山は今日は休むそうだ・・・。日直!黒板をちゃんと綺麗にしておけよー。もうすぐ先生くるぞー。」
担任の先生は逃げるように教室を後にした。言われた日直が慌てて黒板を綺麗にしている。それにしても、なんだろう?先生の態度がちょっとおかしかったような気がする。質問をした生徒も納得がいかないような感じで周りの生徒に愚痴を言っているようだ。
飯田が僕のほうをちらっとみる。飯田も違和感を感じているようだ。僕たちは朝、深山と待ち合わせをしていたのだから休みとなるとなにかあったのかと思うのは当然だ。それに飯田が職員室へ呼ばれているのも深山の何かと関係があるのかもしれないし。
「ねーねー、果歩ー。なんかやったのー?」
やだー、なんて飯田が言いながら周りの女子とはしゃいでいる。飯田は・・・というか委員長っていうのはやっぱり色々と先生に頼まれごとを受けるものなんだろうか?僕のこともクラスに馴染めるようにと先生に頼まれていたような話だったし、まぁ、現在それがうまくいっているかはわからないが。
1時限目が終わり、飯田は職員室へいったようだ。周りの生徒は飯田が何かやったんじゃないかとか適当なことを言っている。中には昨日飯田と深山が一緒にいたことを見ていたのもいるようでそのことも話題になっている。事件を疑うというよりは深山と飯田の関係を疑っているような話になっているようだ。深山にはこのクラスにもファンがいるようで嫉妬みたいな声も混ざっていて・・・大変だな、飯田も。飯田が戻ってきたようだ。さっそく女子に囲まれてわいわいと騒いでいる。気をつけろ、深山ファンもそこに混じっているぞ。
「えー、深山君、怪我したのー?大丈夫なの!?」
深山ファンがひときわ大きい声でしゃべるもんだから周りもなんだなんだとざわつく。怪我・・・か。なにかあったんだろうか。飯田の周りはざわざわと話をしているが・・・なにをいっているかは聞こえないな。ま、あとで飯田から直接聞けばいいか。それにしても、一部の生徒から以前より増して厳しい視線を感じる。こそこそとなにを言っているのかはわからないが、たぶん深山の怪我も僕がやったんじゃないかとかそんなところだろう。ふぅ、クラスの空気みたいな立ち位置からあっという間に嫌われ者か・・・。転校してきてこんなにも早く嫌われ者になるヤツなんて世の中にどれくらいいるんだろうか。とんでもない確率でハズレを引いてしまったもんだ。その後の授業もなんだかまったく入ってこない・・・。やっぱり深山のことが気になって仕方ないのだ。帰りにでも深山の家にでも寄って帰ろうかな。いや、でも、そんなところを周りの生徒に見られてしまったら余計に疑われかねない。大人しく帰るのが一番だろう。朝の感じだと深山ファン辺りが自宅周辺を固めてる可能性もあるし。
終礼前のホームルームでも担任の先生は深山のことにはさほど触れず、逃げるように教室を後にした。それにしてもなんであんなにもそそくさとしているんだろうか?怪我で生徒が休んだくらいでそんなになるものなのか?それともなにか事情でもあるのか?まぁ、僕のこの状況でできることなんてないだろうから、余計なことには首を突っ込まず、まっすぐ帰ろう。
足早に教室を出て、下駄箱へ向かう。靴を出して・・・よし、帰ろう。
「結城君、ちょっと待ってよ。」
後ろから僕が呼ばれた気がする。そのまま気づかないふりをしてやり過ごすこともできたと思うのだが、相手が飯田となるとそうもいかないな。
「どうしたの?」
急いで追いかけてきたのだろうか?はぁはぁっと息を切らせている。飯田は呼吸を整えて・・・ちょっと、こっちにっと玄関の隅のほうへ僕を引っ張る。
「あのね、これから深山君の家にお見舞いにいくんだけど、結城君にもついてきてほしいんだ。」
「えーー・・・」
そんな気はしていた。
「僕が一緒にいくのはまずいんじゃないかな。たぶん、深山の件も僕が疑われてるよ。そんな状態なのにお見舞いって・・・なにをお見舞いする気だよってね」
「結城君は、深山君になにかしたの?」
飯田は冷静に言う。
「なにかだって!?僕が深山になにをするっていうんだよ。僕はなんにもしてない、なんで僕だけこんな・・・。」
抑えていた気持ちが吹き出す。なんだかんだいっても僕も人間だ。色々と我慢をしていたようだ。
「・・・ごめん、なんか飯田に当たっちゃったね・・・ごめん。」
「んーん、いいよ。結城君だって色々我慢してるんでしょ?大丈夫、私はわかっているから。・・・安心して、結城君は犯人じゃないって、私はわかってるから」
飯田はそっと僕の手を握る。拒む気にはなれない・・・もしかしたら誰かに見られているかもしれない。そのせいで飯田に迷惑をかけるかもしれない。だけど、今はまだこのままで・・・。
「じゃー、そろそろいこっか?深山君の家に。」
「・・・そうだね」
なんだかまんまと飯田に乗せられたような気がするけど、それでもずいぶんと気は楽になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます