010
今は、朝の7時30分。今日はこの時間にこの教室で待ち合わせでよかったんだよな。時間になったが飯田も深山もこない。寝坊なのか?飯田はいいとしても、深山については早く顔を見ずには落ち着かない。今朝、ベルに聞いたら思念は残存しているものを見せているだけだから、必ずしも事実とは限らないらしい。強い想いがそこに残っているのであれば例え妄想でも見えてしまうということらしいが・・・。だけど、大体の場合は殺されたときの憎しみや悲しみが色濃く残るらしいから、たかだか妄想程度を優先して見えることなんていうのはそうないらしい。残された思念も時間経過によって消えたり消えなかったりもするのでその日、その時間に起きていることとは限らないとも言っていた。
「だけど・・・あんなものを見たら確認せずにはいられないよ。」
「結城君はなにをみたのかなー?」
急に背後から声を掛けられ驚いた。
「飯田・・・やめてくれよ、本当に・・・」
「あは、ごめんごめん。でも、そんなに驚かなくったっていいんじゃない?」
「まぁ、そうだけど・・・。」
「あれ?結城君だけなの?深山君はまだきてないんだ・・・」
「・・・うん。」
「そっかぁ、寝坊・・・かな?」
「・・・そう・・・かな?」
「・・・。」
「・・・・・・。」
妙な沈黙が流れる。なんかやりにくいな。
「えっとー、じゃぁとりあえずいこっか?深山君にはどうするか言ってあるし、ここにいないって思ったら追ってくるよ。」
「あー、うん。そうだね。」
沈黙を誤魔化すように僕たちはまず保健室から調べてみることした。
ガラガラ・・・。さすがにこの時間では保健室には誰もいないようだ。学校自体は部活動の朝練もあるから7時くらいには全て開放されているのだが保健室も救護の関係からやはり開放されている。僕と飯田は手分けをして保健室内を見てまわる。シュレッダーらしきものはやはりないようだ。
「やっぱり、深山君が言っていたとおりシュレッダーはないねー」
「そうだね。」
「・・・。」
なんだろう、なんか気まずい・・・。うーん、飯田がいつもより口数が少ないせいかな?なんか話が続かないような・・・。
「そういえば・・・ね?結城君って妹さんがいたん・・・だよね?」
「!!!・・・え!?」
「あ、ごめんね、こんなときに・・・さ。ほら、私って学級委員長でしょ?だから先生から聞いてたんだ。」
「・・・そう・・・なんだ。」
「今度転入してくる子は男子で、ちょっと大変な目にあってるからクラスにうまく打ち解けられるように頼むなってね・・・」
「そっか・・・それで、僕によく話し掛けてきてくれてたんだ。」
「・・・それだけじゃないんだけど・・・」
「ん?」
「あはは、なんでもない、なんでもない」
うまく聞き取れなかったが、なんだか飯田は慌てたように身振り手振りをしている。
「私にはお兄ちゃんがいるんだけど、それがすっごく優しくていっつも私を気にかけてくれて・・・最近はちょっとウザいけど。それでも仲がすっごく良いんだぁ。」
「へー、お兄ちゃん・・・ね。」
「結城君もすっごく優しいし、話しやすいし、私のお兄ちゃんにちょっと似てるかなーって思ってたんだよねー。」
「そうなのかな、僕は飯田のお兄ちゃんを見たことがないからよくわからないけど。」
「そうだよね、それでね。結城君って妹さんのことを大切にしてたのかなーって思ってて・・・ちょっと、聞きたかったんだ。」
「・・・僕は、美羽のことを・・・。・・・そうだね、大切な妹・・・だったよ。」
「やっぱり。そういうと思ってたよ。ごめんね・・・。思い出させるような話しちゃって。」
「あ、いや、大丈夫だよ。まぁ、たまに思い出してあげないと美羽も寂しがるだろうし、ちょうど良かったよ。」
ふと、時計に目をやると、7時50分。
「飯田、そろそろ他の生徒が登校してくるんじゃないか?このあとはどこを調べる予定だったんだ?」
「あ、やばいねー。深山君と話してたのは、一応、この上の教室もみておこうってことだったんだけど・・・。急いでいけばまだ間に合うかな。」
「そうだね、今からさっと調べれば、上級生にも見つからず済むかもしれない・・・かな。」
僕たちは急いで3階の・・・保健室の上にある教室を見にいくことした。
向かいながら僕はある事に気づく・・・。
「なぁ、飯田。なんで僕は2階の保健室に運ばれていたんだろう。」
「さぁ・・・、私たちの教室が2階だから2階の保健室だったんじゃないの?」
「んー、でも、たしか・・・僕を運んでくれたのは深山・・・だったよな。僕を抱えて保健室にいくなら1階の保健室にいったほうが早いし、階段をのぼるなんて余計な手間もなくて良かったんじゃないかな。」
飯田がピタリと止まり考え込む。
「確かにそうだよね。」
僕たちの学校に保健室は3つある。1階にひとつ、2階にひとつ、4階にひとつっと合計で3つ。保健室なんて1つあればいいようなもんだが、利便の関係か3つも設置されている。なにかあったときに4階の上級生がわざわざ2階の保健室にいくには遠すぎるだろうし、屋外で怪我などがあったときにも2階の保健室へ運ぶのは大変だろう。やっぱりそういう理由からわざわざ保健室を3つも用意しているんだから、屋外で倒れた僕を2階の保健室に運ぶっていうのは不自然だ。
「でも、1階の保健室ってベットとかないでしょ?4階は行ったことがないからわからないけど・・・。だから寝かせるためにも大変だけど2階まで運んだんじゃないかな。」
「確かに・・・その可能性はあるか。」
「なんにしても深山君に聞いてみればわかることだよね。学校に来たら聞いてみようよ。そんなことより、早く行かないと教室が・・・あ・・・」
階段を上がりきって廊下に出てみるともう生徒が数人歩いているのが見える。ちょっと遅かったみたいだ。
「さすがに僕たちがこの階をうろうろするのはまずいよね・・・って、おい」
飯田はずかずかと保健室の上になるだろう教室を見にいってしまった。僕はちょっと気が引けるというか、周りが気になって階段のあたりでおろおろしている。飯田の様子をみているとなにかに気付いて・・・。急に走って戻ってきた。
「飯田、どうした?」
ちょっと動揺しているような感じで、自らを落ち着かせるようにひと呼吸置いて、言う。
「私のお兄ちゃんの教室だった」
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