009
授業後のホームルームで先生から事件のことは事故として扱うことと、犯人については学校側で独自調査を行うことが伝えられた。とりあえず警察は介入しないということらしい。それに付け加えて、当分の間は部活動や学校に残っての作業活動などは自粛することになった。
「みんな、早く家に帰るんだぞー。」
先生はそう言って、そそくさと教室を後にしていった。たぶん、生徒からの質問に答えるのが嫌だったんだろう。
「うわーー、最悪だぜー。部活禁止かよ!犯人がいるならさっさと名乗り出ろよなぁ。」
「私たちだって大会が近いのにいい迷惑よ。」
周りの生徒がザワザワと愚痴を言い合っている。時たま、僕のほうをチラチラと見ているようだ。やはり生徒の中では僕が最有力の容疑者となっているみたいだ。
(あんまり言って逆上したら危なくない・・・早く帰ろうよ)
そんな相談をしている声も聞こえてくる。たぶん、僕に当てつけで言っているのだろう。ひとしきりザワついたあと教室の生徒は帰っていったようだ。
「結城君、気にすることないんだからね。」
飯田が笑顔で僕に話しかけてくる。
「いや、まぁ・・・大丈夫だよ。」
「あは、大丈夫って顔してないよ。結城君は犯人じゃないんだから堂々としていればいいんだよ。」
大丈夫って顔をしていない・・・。そりゃそうだろう、あからさまに疑われていい気分はしていないし、これでなんも感じなければ人間じゃないだろう。
「でも、そのうち疑いも晴れるよ。先生たちも調査するって言ってたし、それまでの辛抱辛抱。」
「・・・そうだね。」
「結城君は元々クラスで浮いてるし、たいした状況は変わらないでしょー。」
飯田はなにげにひどいことを言う。この娘は僕が何を言われても傷つかないと思っているのだろうか。
「飯田・・・それは、ちょっと。」
「あ、ごめんごめん。」
飯田は笑いながら誤魔化す。
「それに・・・。容疑者は結城君だけじゃないよ?私だって同じなんだから」
「同じ?」
「ほらー、忘れたの?保健室に」
やはり飯田も授業を抜け出して保健室にいたことが周りに知れ渡っていたようで一部の生徒から疑われているらしい。
「だから、一緒だよ。大丈夫。」
そういって笑う飯田にはなんだかとても救われる気分になる。さっきまで心の奥でドロドロとしていた気持ちが浄化されるような・・・そんな感じに。
「飯田委員長は保健室で結城と何をしていたのかなー?」
ニヤニヤとしながら深山が会話に入ってくる。
「深山君、何って・・・何を想像してるのよ!変態!!」
「変態って、俺はまだ何も言ってないじゃん。飯田こそ何を勝手に想像しているんだよ。」
「な・・・いや、その・・・」
飯田が顔を赤らめて言葉に詰まる。
「なぁ深山、事件のことって詳しく知ってるのか?」
「ん?まぁ、周りの生徒から聞いた程度だが・・・どうした?犯人捜しでもするのか?」
「いや、ちょっとわからないことばかりだから・・・」
「犯人捜しなんてだめよ、結城君。私たちはただでさえ疑われているんだから、ここは大人しく先生に任せたほうがいいわ」
飯田が迫るような勢いで僕に言う。
「まぁまぁ、飯田。落ち着けって。結城もわけもわからず疑われているのは嫌なんだろう?知っている範囲でいいか?」
「ああ、頼む。」
飯田は口を膨らませている。
「結城も先生からどこまで聞いたかわからないが、なんでも2年生の課外授業で生徒が集まっているところにシュレッダーが落ちてきたっていう話らしい。」
「あー、なんかそのあたりは生徒指導から聞いたな。」
「でな、飛んできたのが結城がいた保健室のあるほうで校舎から出てきた保健医がちょうど運悪く落ちてきた付近にいたらしいな」
「・・・そうか、それで僕が。」
「たぶん、結城が疑いだけで済んでいるのは保健室にはシュレッダーが設置されていないからだな。あるのは各教室とか会議室だけだからなぁ。」
「結城君、あのとき保健室って窓は開いていたっけ?」
飯田が口を挟む。
「窓は・・・閉まっていた・・・かな?」
「私もあまり記憶にないんだけど、あの日は風もなかったし、窓が開いていれば外からの声も聞こえていたと思うの。」
「ということは保健室の窓は開いていなかった・・・」
まさか、こんなことになるだなんて想像もしていないから窓が開いてるかどうかなんて覚えているわけがないのだが、飯田の話を聞くと確かに閉まっていた気がする。
「おいおい、飯田。そんなこと確認してどうするんだよ?窓なんて後から開ければ変わらないだろう。」
「うーん、でも、もし・・・シュレッダーを投げようと思ってて、窓を開けたとして。下には生徒がいるわけだから窓を開く音が聞こえてもおかしくないじゃないかな?」
「窓の音。」
「うん、だれもその音に気付かなくて、シュレッダーが落ちてくるまでわからないなんてちょっとおかしいと思わない?」
「さすが、委員長。成績優秀なだけあるな。」
深山がちゃかす。飯田はもう、と考え込む。
「元々窓が開いていないのであれば、結城がどこかに隠していたシュレッダーを投げるにしても窓を開けた時に誰かしらに気づかれるってことか。」
「そうそう、だから、結城君が犯人のはずがないわ。」
飯田は一生懸命に僕を庇ってくれている。
「じゃぁ、犯人はいったい・・・」
ガラガラ・・・。
「おい、お前ら、残ってないでさっさと帰れー。」
先生が戻ってきて声を掛ける。僕たちはそそくさと荷物を持って教室を後にした。校舎をでたあと、明日、朝早く学校に来て保健室の上の階の教室を3人で調べてみようということになった。細かい打ち合わせをどこかの店でしようかという話になったのだが、僕はベルのことも気になっていたので、そのあたりは二人に任せて先に帰らせてもらうことになった。
「結城君、じゃぁ明日は7時30分くらいに教室で待ち合わせってことでねー。細かい話は深山君と詰めておくからぁ」
「あー、うん、よろしく。」
ていうか、飯田は犯人捜しには反対じゃなかったのか?気が付いたらノリノリじゃないか。7時30分か・・・結構早いな。今日は早めに寝て明日に備えようかな。せっかく協力してくれている二人を僕が待たせるわけにはいかないだろうからな。
そんなことを思いながら自宅へと到着。部屋の鍵は飯田が見つけて持っていてくれたらしく今日の休み時間に返してくれていたので、すんなり入れるな。
カチャカチャ・・・。あれ?開いてる!?ベルがもう帰ってきているのかな?
「ただいまぁ・・・ベル、いるのかぁ?」
「おう、お前か、今日はずいぶんと早いんだな。」
ベルがちゃんと帰ってきているみたいでなんか安心する。っとベルを見ると・・・なんだか随分と可愛い格好をしている。フリフリのスカートに今風な服装・・・。なんかベルの印象と違う気がするけど、見た目は美羽なのでぱっと見の印象はピッタリなんだけど。
「ん?どうだ?ワタシはこのフリフリのスカートは動きにくくて嫌なんだが、ショップの店員がこれがいいとうるさくて敵わんな」
なんて言ってはいるが本人は随分と気にいっているようだ。渡しておいたお金はしっかりと使い切ってきたみたいだな。まったく・・・。
「で、お前のほうはどうだったんだ?学校は。」
「それがさー、結構いろいろあったんだけど・・・」
僕は今日あったことを一通りベルに話した。ベルはなんだかあまり興味なさげではあるがうんうん。と聞いてくれている。
「・・・で、明日は朝早くに学校に行って現場検証みたいなことをしてみることになったんだ。」
「ふーん、人間っていうのはまどろっこしいものだな。そんなものワタシなら一発解決だろう。」
「そ、そうなの?」
「まぁな・・・で、お前よ。ワタシは腹が減っているんだが?」
ニヤニヤと近づいてくる。あ、このパターンはやばいな・・・。
「ベル、ちょっと待って!先に教えて欲しいんだけど。」
「なぁんだ?手短にしてくれよぉ」
ジリジリと寄ってくる。目はだいぶ妖しい感じになってきている。もう食事のことしか考えられていないのだろうか。
「学校で僕に噛みついて魔素を吸ったじゃないか。あの時に見えた映像ってなんだったんだ?」
その言葉に思い出したのか、ベルがふと我に返る。
「あー、あれはな。私が噛みついてお前の中に強制的にワタシのエネルギーと術式を送り込んだんだ。体中に力がみなぎってきただろう。」
「あ、うん。で、そのあとになんか見えたんだ」
「あの時ワタシが打ったのは残存思念法といって、その空間に残っている思念を読み取る法だったな。なにが見えていたのかはわからないが、映像ということは相当強い想いが残っていたんだろうな。」
「残存思念・・・。」
ということは、あの時見えたのは飯田の思念なのか?やっぱりなにかあったんだな。・・・ベルの目つきがまた妖しくなってきている。
「ククク・・・もういいかぁ。ワタシは腹が減ってたまらないんだぁ」
ベルは体を掻き毟るようにモジモジとしている。これ以上はもたなそうだな。また暴走されても困るから早くしてあげなきゃ。
「じゃぁ、もう一回残存思念のやつにしてくれるかい?できればこの町で強い思念を感じれるような感じで」
「あぁ、あぁ、わかったぁ。」
ベルは、はぁはぁっと息も荒く近づいてくる。僕は頭を傾けてベルが首元に噛みつきやすいようにする。その姿を見てか、顔を赤らめながら僕の頬に顔をすり合わせた後、ひと噛みする。あーーー、来た来た、力がみなぎってくる。前回と同じならここで目を瞑るんだよな。
お、見えてきたぞ?----これは?なんだ!!?
「深山か!?おい、避けろ、きてるぞーーー。避けろーー!!!」
僕は夢中になって叫ぶ。見えているのは深山の目線というよりは誰かの目線で深山に背後から近づいていって棒きれで殴っている。
「おい、やめろよーー、お前、なにやってんだ!!!」
なにを言ったって聞こえるはずはないのだが叫ばずにはいられない。ひとしきり殴った後に顔を確認しているのか?こいつはなにが目的なんだ。目線が離れていく・・・。もう少しで顔が見えそうだが・・・。と次の瞬間、映像は消えて全身に痛みが走り出す。
「いただきまぁす。」
ベルが一気に魔素を吸い上げる。その勢いに体中の血液自体が吸われているかのような感覚にもなる。そして、訪れる脱力感。僕はそのままベットへと倒れて眠りについた。
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