目を閉じると時が止まる能力

だるぉ

目を閉じると時が止まる能力


 ある日、夢の中に天使が出て来た。

 そして僕に言ったのだ。


「時間を止める能力、あなたに授けましょうか?」


「時間を止める? それってつまり──」


 時間停止。

 ザ・ワールド。

 もしくは第3部のスタープラチナみたいな?


「ま、まあ……、例えに若干の偏りを感じますけれど、概ねそんなところです」


「なるほど」


「で、どうします? 要りますか?」


「是非!」


 もちろん即決だった。悩む余地はない。

 だって考えてみてほしい──時を止められるんだぜ?

 SFやファンタジーの世界ですら最強格、半ばチート扱いを受けるようなそんな能力を、こと現実世界において会得してしまえば一体どうなることだろうか。


 もう二度と学校には遅刻しなくて済むし、今度の定期テストだって全教科満点間違いなし。体育の時間なんて、一躍ヒーローになってしまうだろう。ちょっと考えただけでも、その恩恵は計り知れない。

 こんなことなら明日からでも陸上部に入部して、ウサインボルト顔負けのワールドレコードを刻んでやるのもいいかもな。はは、妄想が捗るぜ。


 なんて僕が考えていると、天使は付け足すように言った。


「ちなみにこの能力には条件があります。それは、能力者本人が目を閉じている間しか発動しないことです」


 むう、さすがにそれなりの発動条件はあるのか。だとすると、できることも結構限られてしまう。

 でもまあ、それでも十分か。なんせ時を止められるのだから。しかも僕自身にデメリットは全くないし。


「それでもいいですか?」


「全然構いません。むしろ有難いくらい!」


 やはり即決した僕だった。

 それから天使は微笑むと、言った通り、僕に『目を閉じると時が止まる能力』をくれた。


 そんなところで目が覚める。

 二重の意味で覚醒したであろう僕は、どうか今の出来事が夢オチでありませんように、と願いながら恐る恐る目を閉じた。


 するとどうだろうか。自分でも信じられないことに、本当に目を閉じている間だけ時が止まったのだ。確かに10秒以上は目を閉じたはずだが、その間、時計の秒針が全く動いてなかったのが何よりもの証拠だ。


 世界の全ての事象が停止しても、僕だけは自由に動くことができる。

 ただし目を閉じている間だけに限るけれど。


 さっそく僕は二度寝した。一限目の始業の時間は迫っていたが、僕が眠れば目を閉じることになるし、そうなると必然的に時間が止まるから、どれだけ寝ても寝過ごすことはないのだ。いやほんと、快適。


 それからの僕はというと、この能力の恩恵を最大限発揮できるように様々な工夫を凝らし、アラサー手前になる頃には世界一の成功者となっていた。


 マジすげえ。

 時止め万歳。


 しかしそんなある日、事件は起きた。

 僕の莫大な資産を狙った不届き者から銃撃を受けてしまったのだ。完全に不意を突かれてしまい、避けることは叶わない。弾丸が胸を貫通する。痛い、激痛。


 けれども僕は慌てなかった。なぜなら周りのSPたちによってその不届き者はすぐさま捕まえられたし、これしきの怪我、僕の優秀な専属医の手にかかればちょちょいのちょいだから。


 ゆえに僕は安心していた。

 薄れゆく意識の中で、きっと次に目が覚める頃には病院のベットなんだろうな、と確信していたから。


 しかしこの日以来、僕は決して目を覚ますことはなかった。

 いや──もう2度と世界が動き出すことはなかった、と言った方が正しいか。

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