キャラクター~孤独な人の肖像~ 映画レビュー

青瓢箪

人間が愛おしくなる重厚なエンターテイメント

 この映画の主人公、ヤーコブは私生児。

 父親は泣く子も黙る執政官ドレイブルハーブン。


 母親はドレイブルハーブンのメイドでした。ヤーコブは母親が強姦されてできた子供なのです。


 妊娠した母親に「いつ結婚する?」と手紙で迫る父、ドレイブルハーブン。

 それに拒否し続ける意志の強固な母。

 めげず同じ手紙をひたすら送り続ける父。


 主人公のヤーコブの少年期は悲惨で救いようがありません。

 無口で頑固な母親と二人きりで暮らす粗末なアパートの生活。

 しかし、彼はそこで人生を変える宝物と出会います。

 それは、前の住人である外国人が置いていった英語の百科事典だったのでした……。


 * * *


 成長したヤーコブは進学も出来ず、日雇い労働を続ける毎日。

 一念発起して煙草屋を開業するも早速、騙されて破産。

 しかし、破産申告で訪れた法律事務所で彼は人生の転換を迎えます。


 ちょうど、その場にやってきた事務所の客である外国人。

 言葉が通じないからと、おたおた困惑する人々の前で、突然スラスラと英語で応対するみすぼらしい姿の青年が。


『この英語の堪能な若者は一体、誰かね?』


 おわかりでしょうが。

 そこからは、観客である私たちのドヤ顔の連続。

 周囲の人間がヤーコブの聡明さに気づき、態度を変えていく様子はまことに小気味よい。

 まして、ヤーコブは規格外の努力家。

 まるで古き良き時代の日本人のようなひたすら努力する彼の姿に周囲の者たち、観客である私たちは彼を認め、愛します。


 ここまでくれば、ヤーコブの努力によるサクセスストーリー、となるのでしょうが。

 実はこの物語はそうではなく。


 父親であるドレイブルハーブンがヤーコブの成功を執拗に何度も邪魔する物語なのです。


 調べると、この作品のストーリーは、オランダの有名なベストセラー二作品をドッキングさせたものだとか。

 いいとこ取りというわけですね。


 映像は大恐慌直前のあの時代の雰囲気が匂ってくるようで、素晴らしい。

(ほら、みんながハンチング帽をかぶって、煙草を吸いまくり、捨てまくりのあの時代です)1920年代の風景を撮るために、四カ国でロケしたとか。運河、街並みの風景は絵画を切り取ったような懐かしい映像美です。


 主人公ヤーコブの敵役であり、父であるドレイブルハーブンを演じるのは、ヤン・デクレール。

 恐ろしい圧倒的な存在感を最後まで見せつけてくれます。


 対して、主人公のヤーコブを好演するのはフェジャ・ファン・フェットという俳優さん。

 どうしてこの父と母から、こんな可愛い顔の子どもが生まれるのか、という疑問はさておき、すごく可愛いらしい顔の男優さんです。

 なんというか『頑張って! 』とみんなが応援したくなるような庇護欲をそそる顔。


 主役級の二人もさることながら、先がどうなるのかハラハラする読めないストーリーも魅力ですが。


 私がこの作品で一番愛したのは脇役の登場人物たち。


 女に振られてばっかりの底抜けに明るい共産主義アカの友人。

 挫折しそうになるヤーコブを叱咤し、支える弁護士の上司。

 裕福な生まれでありながらも、貧しいヤーコブに温かく接する美しい女性の同僚。


 ヤーコブは肉親に恵まれなかったのですが、他人との素晴らしい出会いには恵まれました。

 特に、しゃくれ顎の上司とヤーコブの何度かのやり取りのシーンは思い出すだけで、胸が詰まります、私。


 この作品は彩り豊かな個性的脇役陣がやはり一番の魅力でしょうね。


 重厚ながらもコミカルなシーンも含むという贅沢なこの一作。

 本当の名作って、扱うのが重いテーマであってもきちんとエンターテイメントに仕上がっている作品だと私は思うんです。

 『大脱走』とか。『ライフ・イズ・ビューティフル』とか。


 重くて不可解なラストが余韻を残すこの映画。

 さて、皆さんはどうお感じになり、ドレイブルハーブンの考えを解するのか。





 追伸


 この映画はアカデミー外国語映画賞を取っています。

 奇しくも、同年アカデミー賞に輝いたのはあの『タイタニック』。


 あの年って、『タイタニック』が有名になりすぎて他の作品が霞んじゃったところがあると思うんです。

 同年には『L.Aコンフィデンシャル』もありましたからね。

 そう考えると、あの年は映画の当たり年だったのでしょうね。


 最後にもう一つ。

 この映画のタイトルが何故そうなったのか、私にはわかりませんや(笑)

 加えてジャンルがサスペンス、となっているのも謎です。


 観た方、ご意見お聞かせください。(笑)










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