6. 手品
罪悪感はあったけど、れんと飲みにいくことに。
「おまたせしました」
「どこいく?」
「肉が食べたいです」
「わかった、じゃあここで」
リードしてくれるし、エスコートもしてくれる。
「段差、気をつけて」
なんだかはるとに執着していた自分がますます惨めに感じてきた。
お店に着いて、一応8時までには帰るということを伝えた。
「そっか。あんまいられないね。」
「すみません、急に」
「いやむしろ、彼氏大丈夫?もっと早く帰ったほうがいいんじゃない?」
「大丈夫です」
彼氏とのことを、表面上では気遣って心配してる感じ。表面上だけ。
「で、相談したいことあるんでしょ?」
「はい」
「敬語使わなくていいよ」
「うん、、」
「俺、彼氏とはもう長く続かないと思う」
「そうですか」
「うん。以上」
はるとの話は一瞬で終わった。
お酒もまわり、
「俺、お前のこと、男7人くらいいるビッチだと思っていた」
「えっ?」
「いやほんとごめん、話聞いてたらさ、意外と真面目だよね笑」
「私もれんさんのこと、女慣れしてるって思いました。」
「言うけど俺、今、全然女いないし、人生で人を好きになったこと一回しかない。」
びっくりした。
「あと俺、好きとかわからないんだよね。あれ以上はない気がする。」
「私も、好きがわかりません。何が正しいのかも」
「ま、そんなことより、手品見る?」
「え?笑」
そう言って、リュックからなぜかトランプが出てきた。
「いつも持ち歩いてるんですか?」
「そうだよ。上からカード1枚引いて」
「引きました」
「そのカード当ててみるから、どこか適当な場所に入れて。俺には見せないでね。」
私はハートの2を引いた。
カードを適当な場所に入れて、シャッフルした。
「すみれが引いたのは…
ハートの2」
「えっ!すごい!!どうやったんですか」
「教えなーい」
時間はいつのまにか8時になっていた。
「じゃあ、もう帰るか」
「はい、あの、今日はありがとう」
「うん。俺も楽しかった。今度は古着行こうな。空いてる日、教えて」
「わかった、楽しみにしています。」
地下鉄で途中まで一緒に帰った。
私の方が先に降りる。
「じゃあな、」
「じゃあまた、」
ドアが閉まる時、なんだかやりきれない気持ちだった。
れんも、そんな顔していた。
そう見えただけかもだけど。
駅のホームに着いて、はるとはいないだろうと思っていたら、待っていた。
「ごめん…」
「誰といたの?」
「友達」
「友達って?」
「バイト先の人」
誤魔化して、とりあえず家に帰った。
「この前は言い過ぎた、趣味押し付けてごめん。別れたくない。」
はるとはすぐ謝ってきた。
「私も、謝らないといけないことがある。」
「なに?」
「実は今日、れんっていう人と飲みに行ってたの」
「…まあ、男の人だろうなとは思っていた」
「本当にごめん。」
「まあ、とりあえずは仲直りだね。せっかくすみれにお土産買ってきたし、食べて」
「え?ありがとう」
仲直りではないでしょ。もっと話したい。
話がいつも噛み合わない。でももう話すのも疲れた。真剣に向き合うとかどうでもよかった。無駄だとわかっていたから。
それでも、ずっと駅で待っていてくれたこと、お土産は嬉しかった。
お土産は大好きな苺のお菓子だった。
「ありがとう」
でも、私へのお土産はあるけど、家族の分が足りない気がした。
「自分の家族へのお土産は?」
「ああ、お金足りなくて買ってない」
「え?大丈夫なの?」
「うーん、じゃあ、すみれのやつ四つ入りだし、ひとつ残してもらって、弟にあげてもいい?」
「うん、いいよ。」
心が狭いからなのか、わからないけれど
それがとってもショックだった。
地下アイドルとか趣味に使うお金があったのなら、家族用の別で買えたよね
彼女としてどうなんだろう。このまま、我慢しなきゃいけないのかな…
色々考えているうちに、寝る時間になった。
もう完全に冷め切っていた。
はるとが触っても全然濡れなかった。
「どうしたの?」
「あのね、彼女用のお土産を家族にあげるのは嫌だった。私のだから嬉しかったのに。」
「え?そんなに家族にあげるのが嫌だった?欲張り」
もう、ダメだ。
最初から最後まで合わない。
エッチしている時、れんを思い出した。
あの手品、種明かししてくれないかな。
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