第2話 涙に濡れたプロローグ②
「では、気を取り直して…」
先ほどはつい動揺してしまったが、仕方がない。いきなり初対面の綺麗な人に自分を見抜いているようなことを言われたら誰だってそうなるはずだ。という訳で平静を取り戻した俺を見て、女神様は机の上にあった資料を手に取りながら次の話題へと移った。
「大吾さんの能力の話ですが、知力・走力・運は平均的です。こちらは問題ありません」
ちなみに俺は女神様の指示によりどこからともなく出現したパイプ椅子に腰を下ろして話を聞いている。先ほどの痙攣空気椅子が相当気持ち悪かったのだろうか。
「ちょっと待って下さい?その3つがあれば大抵のことはなんとかなりませんか?少なくとも日本で暮らす分には大丈夫なような気がするんですが…」
「いえ、問題なのはそれ以外でして…」
「いやいやいや、確かに俺はルックスの良さ、金運、カリスマといった能力がほんの少ーーーーーーし足りていないのは自覚していますがまさか平均にすら大きく劣っているなんてそんなことは」
俺の平均的(らしい)頭をフル回転させても思いつくのはそれくらいだ。おそらく大袈裟に言っているだけだろう。
「あなたに足りていないのは、力・器用さ・丈夫さ・敏捷性・賢さといった大吾さんの世界のゲームによくあるパラメータをはじめとして」
おや?
「歌唱力・演奏力・芸術性・水泳能力・跳躍力・精神力・語学力・信仰力・経済力といった」
「それ以上俺をこき下ろすのをやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」
全否定する勢いじゃねえか!確かに音楽の先生からは『個性的な歌い方だね』とか、授業で2人1組で互いの絵を描いた時も真面目にやったのに相手に『馬鹿にしてんのか⁉︎』とか言われたり、英語のテストは毎回赤点一歩手前だったりと思い当たる節しかないけどさ!それにさっきから薄々感じていたが、この女神様は俺に対する思い遣りとか優しさがイマイチ足りていない気がする!もうちょっとオブラートに包む心掛けがあってもいいんじゃないか!
「まあ、今言った項目は死ぬまで頑張れば今の世界でも克服可能なことです。特に信仰力は私を心から崇めれば簡単に高数値になります!気しないで前向きになりましょう!」
「今この女神様死ぬまでって言ったよね?死ぬ気じゃなくて死ぬまでって言ったよね?それって死ななきゃ人生詰んでるってことだよね?あとなんか途中で余計な一言も聞こえた気がするんだが?」
「気のせいですよ」
目が明後日の方向を向いているせいでなんの説得力もない。
「というかですね、それよりも最優先で上げて欲しい項目があるのですよ」
「さっきの以外にまだあるのか!これ以上俺の心に刺さることを言うなら四つん這いの態勢で無言で拳を床に叩きつけながら泣いてやりますよ!」
「常識です」
俺は椅子から立ち上がり、四つん這いの状態で無言で拳を床に叩きつけながら泣いた。
ブルースワローズ 奈津英介 @kuroda9029
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