ブルースワローズ
奈津英介
第1話 涙に濡れたプロローグ①
「おめでとうございます、菊千大吾様。あなたは我々の『全人類効率成長化計画』における被験者として見事抜擢されました」
気がつくと一面が真っ白で殺風景な見知らぬ部屋で、そんなことを告げられた。
全く意味が分からない。
そもそもここはどこだ?俺は先月に入学した高校で友達と楽しい学生生活を送っていたはずなのだが?
「混乱するのも無理はありません。ですが、あなたにとって悪い話でもないと思いますよ」
そこそこ高級そうな椅子に座り、事務机に肘をつき顔の前で手を組んでいる女性が笑顔でそんなことをおっしゃっている。だが、俺はそれどころではない。女性の儚げで可憐な顔ときらやかで美しい長い髪、そして部屋と同じ白を基調とした神官のような服がこの世の人ではないように感じる印象的な姿だ。しかし、そのせいもあってここが現実では無いような気がしてならない。もしかしてここは死後の世界だったりするのだろうか…?
「この計画に参加すれば、あなたの能力は全体的に大幅アップが見込まれ、将来に今よりももっと希望が持てるでしょう。…と、私ばかり喋ってしまってごめんなさい。何か聞きたいことはありませんか?」
目の前の女性は俺の名前を知っているようだが、俺はもちろん知らない。初対面だ。とりあえず名前から聞くことにしよう。
「えと…じゃあ、まず一つ。あなたは誰なんです?」
「そういえば私のことはまだ言ってませんでしたね。私はフィレジア。慈愛を司る女神をやっています」
目の前にいる女性は可愛い声でそう言った。なるほど、その言葉が真実ならさっき俺が抱いた印象は間違っていないらしい………え?
「女神?」
「はい、女神です」
目の前の女神様(?)からは人を騙すような感じは全くしない。…とりあえず本物だと仮定しておこう、うん。
「私がどうかしましたか?」
「ああ、いやなんでもありませんよ!ええ!」
「?」
この世の人では無いとは思ったが、神様だとは思っていなかったことは黙っていることにする。
「フィレジアさん、ですね。分かりました!ただ、俺の目の前にフィレジアさんがいるということは、俺はもしかして死んでしまったのですか?」
自分でもついさっき夜に寝た記憶はあるのだが、そこまでしか覚えていない。自分が気づかぬ間にあっさり死んでしまっていたとなるとやりきれない。
「いいえ、あなたは生きています。今ここにいるのはあなたの意識だけ。体はちゃんとあなたの家にありますよ。」
そう言いながらフィレジアは右手で円を描いた。すると、その円の内側が段々とぼやけていき…
「俺が寝ている…」
「ええ、安心していただけましたか?」
そこには気持ちいいぐらいに爆睡している俺が映し出されていた。今まで死の恐怖が付き纏って少し怖かったが、一先ず安心して大丈夫なようだ。だが、死んでいないなら新たな疑問が生まれる。
「では、最後にもう一つ。俺は死んだんじゃないとするとなぜここにいるんです?」
死んだからこのまま天国、もしくはあるはずだった生を全うするために転生するかを選びなさいと言うのなら物語のお約束だからまだ分かる。だが、今見せてもらった通り俺は生きているようだ。では、なぜ俺はここにいるのだろう?
「それは、あなたの能力が世界の同年代と比べて圧倒的に低いからなのです」
「え?」
今この女神様はなんと言ったのだろう?聞き間違いでなければ、
「俺の能力が低い?」
「ええ、そうなのです」
「な、なるほど、なるほど。俺の能力が低いからここに呼ばれたんですね」
いやはやまさかそんな情けない理由で選ばれるはずがない。ここは一息入れるために深呼吸でもしよう。大丈夫だ女神様には俺の動揺は全く伝わっていない。
「あの…手が震えてますけど大丈夫ですか…?」
「いえ、お構いなく」
大丈夫だ落ち着け俺相手の女神様には俺の動揺は少ししか伝わっていないここは一旦落ち着いて椅子に座ろう。
「ショックだったのは分かりますのでとりあえず落ち着いてください。全身が震えている状態での空気椅子は見ていて怖いですよ…」
「何故バレた!?」
「誰だって気づきますよ⁉︎」
少なくとも俺に演技力がないことは認めよう。…少し不服だが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます