おまけ*6月30日(土)

「うん、わかったわかった。 また近くなったら連絡するから。 はい、はーい」


 通話を終了させ、定位置――ソファーに座る三上くんの隣に腰を下ろすと「電話訛ってたよ」と彼はクスクス笑った。


「言わないでよ」

「ごめんごめん、お母さん何て?」

「夏にみんなが遊びに来たら旭山あさひやま動物園に連れて行ってあげたらどう?だって。 まだ再来月の話なのに気が早いよね!」

「いいね! 旭山! 俺行ってみたい!」

「遠いよ~?」

「でも、お母さんはそんな遠くないって言ってたよ?」

「え? いつ?」

「ラインで!」

「ライン!?」


 彼が私に向けた携帯の画面を見て驚いた。いや、驚いたなんて生やさしいものじゃない。知らない間に娘の彼氏と連絡先を交換していた我が母。もう!何してんだか!


「あ、ナイショって言われてたんだ!」

「もー!」


 天気のいい土曜日の午後。

 彼と過ごすお休みはただでさえ幸せでいっぱいなのに、窓から入る心地よい風にカーテンだけじゃなく私の気持ちも踊った。

 今年の夏の計画。

 それは、このシェアハウスのメンバー全員で北海道旅行をするというものだった。


 テーブルに並んだたくさんの旅行情報誌。

『私、函館の夜景が見たい!』

『俺は豚丼食べたい』

『ここ、ここ!北一硝子行きたい』

『ひまわりの里も青い池も行きたい!』

『やっぱり世界遺産は見た方がいいだろ』

 みんなそれぞれ色んな地域のを買ってくるものだから無駄に八冊も集まった。


「みんな楽しみにしてくれてるのは嬉しいんだけど、北海道はデカいんだからね! 三泊四日で函館も知床もって無理だからね」


 私がそう注意すると、彼は頁を捲る指を止めてこちらを向いた。


「じゃあ、今日みんなが帰ってきたらまた話そ? 俺、みんなの行きたいところ優先でいいし!」

「優先でいいの? なんで?」

「俺は、これから何回でも鞠さんと行けると思うから」

「……三上くん」


 これぞまさしく、キューピッドの矢で撃ち抜かれた瞬間。将来を期待させる言葉にキュンと締め付けられた胸を押さえたまま彼を見つめた。


 キスがくる!!


 彼が体の重心を変えてゆっくり近付いた時、甘い予感に任せて目を閉じた。

 ――それなのに。


「ねぇ明里さん、リビングでイチャイチャしないって決まり作ったの誰だったかな」

「さぁ? でもその決まりがなくなるなら、私もレオとキスくらいするけど。 ね?」

「ちょっ、武田さん真っ赤っすよ!」

「俺は見せないからな!!」


 ――と、こんな感じで、騒がしい住人たちの帰宅により私たちのイチャイチャタイムは中断させられてしまった。

 

 カップルが三つ出来たことには正直驚いたけれど、それでも私たち六人は、それなりに上手くやっております。

 いつか、このシェアハウスがコーポラティブハウスに生まれ変わる日がきたら、またご報告いたしますね!!


 🏠END🏠

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前髪の奥まで覗いて 嘉田 まりこ @MARIKO

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