はたちになった~ら、友達100人売れるかな?

ちびまるフォイ

お金で買えないものは100えんショップで

「俺と付き合ってください!!」


「うんムリ」


開幕早々にフラれてしまった。

自分なりに原因を考え自己分析してみた。


「……そうか! プレゼントがなかったからだ!!」


自分の顔面偏差値は棚に上げて結論に至った。


プロポーズするときも指輪は必要だ。

そのように自分の本気度を示すためにはプレゼントが手っ取り早い。


近くの宝石店にいってみて相場を調べることに。


「たっけぇ!!」


値札に書かれているのは生涯年収でも買えるかどうかわからない値段。

宝石を欲しがるのはこの値段あってこそなのではないか。


男は消えても宝石は残る。

もはや女心をこじらせて疑心暗鬼に陥りそうだ。


「あれ? こんなところにお店あったっけ」


宝石店の隣に「100えんショップ」ができていた。

店内には絶対に100円で買えないであろう賞品がならんでいる。


「ほ、宝石が100円!?」


隣の宝石店にケンカを売るような価格設定にレジまで猛ダッシュ。


「これください!!」


「こちら1点で、100えんになります」


財布から小銭を出すと、店員は顔を横に振った。


「こちらお金ではお支払いできません」


「え? でも100円ショップって……」


「いえ、うちは100縁ショップ。

 お支払いにはあなたの人間関係を消費します。

 100人ぶんの縁でお支払いをお願いします」


「ひゃっ……ひゃくにん!?」


小学生の頃に歌った「ともだち100人できるかな」を思い出した。


「や、やってやるさ! 100人くらい集めてやる!!」


それから毎日パーティやら交流会やらに顔を出しては

連絡先を交換して「縁」を作りに作りまくった。


SNSへのメッセージがひっきりなしになるころ、

俺はふたたび100縁ショップへやって来た。


「どーだ! 100縁用意してきたぞ!!」


「かしこまりました。では精算させていただきます。

 ご精算されたご縁は二度と復縁できませんがよろしいですか?」


「ああいいよ。どうせ友達の数を競うような連中だ。

 消えてしまってもなんら問題ない」


ついに100縁ショップで宝石を手に入れた。

あなどるなかれ、鑑定士もお墨付きのゴリゴリに本物の宝石。


ふたたび彼女のもとへぴかぴかの宝石を持って行った。


「俺と、この宝石と! 付き合ってください!!」


「ごめんなさい、私もう彼氏がいるので」




「ちくしょーー!!」


宝石をたたきつけて破壊した。

安定と信頼と実績のバッドエンド。どうあがいても絶望だ。


しかも悔しいのは付き合っているとかいう彼氏が

どう多角的に見ても俺より顔面偏差値が低い人間。


自分のどこが劣っているのか、負けているのかなんでも鑑定団に調査を依頼したい。


「おのれ……人が必死に縁を集めている間に、

 俺のいとしのマドンナを横からかっさらうなど……!」


メラメラと燃える怒りの炎により、俺はダークサイドに堕ちた。


ちょうど100縁ショップでオープンスタッフのバイトを募集していたのもあり

俺はとんとん拍子でアルバイトとして勤務が決まった。


「ふっふっふ、ここで働くことができればこっちのものだ。

 俺のスーパー彼氏計画はここからはじまるのだ」


アルバイトとして勤務するのも、

ひとえに彼氏になるための必要な工程。


彼氏の家に行って、家の中にある大事そうな代物をもってくると

品出しの際にしれっと100縁ショップに陳列する。


「これでよし。この大事なものを取り戻しに来たら

 100個の縁を切らせて、彼女から手を引かせてやる」


彼氏にはこの店の存在を気付かせられるように、チラしも配りまくった。

店長には熱心なバイトに映っているだろう。


獲物を待つ肉食動物のような目でバイトすること数日。

ついに彼氏が100縁ショップへとやってきた。


レジカウンターにガラス細工のコップを置いた。


「え? こちらでよろしいんですか?」


俺が盗んできたものじゃない。

このコップは普通に100縁ショップの商品。


「はい、100縁で支払うんですよね」


彼氏の迷いない顔に、これ以上の追及は俺がバレそうなのでやめた。

100縁さえ失ってしまえばこっちは目的達成なのだから。


「では100縁をちょうだいします」


レジで精算しレシートを渡すころには彼氏はもういない。

マリオのように小ジャンプしながら嬉しそうに帰っていった。


しかも、品物はレジにおきっぱなし。


100縁支払って何も得られないまま帰っていった。

あいつ情緒不安定すぎるだろ。


「ま、いいか。さてさて、彼女との縁は含まれているかな……?」


彼氏の支払った縁の中身を見ていると、

たしかに彼女との縁も一緒に生産されていた。


店長も見ていない監視カメラの死角で、レジから彼女との縁を手に入れた。


「やった!! ついに手に入れた!! 縁を手に入れたぞ!!」


縁を手に入れたことで、連絡先から彼女の住所まで手に入れた。

これから始まる東京ラブストーリーに心弾ませていると、

その瞬間はすぐに訪れた。



「あ……っ」



バイトの帰り、運命の赤い縁に引き寄せられるように彼女と出会った。


しかも彼氏と縁を切られた直後なのか、

頭の上に表示されるステータスに「傷心中」と表示している。

まさに好機。


「あの!! 俺と、付き合ってください!!」


「私でよければ……///」


「うそ!? やったーー!!! ついに彼女ゲットだぜーー!!」


縁を手に入れたことで告白は大成功した。


「ちょっとこっちにきて」


「おいおい、もういきなり積極的だなぁ、ははは。いったいどこに連れていくんだい?」


鼻の下を伸ばしていると、彼女が腕を引いてやってきたのは

黒塗り・黒服のいかつい男たちが整列する暴力団のアジト。


「「「 お嬢!! おかえりなせぇ!! 」」」


「おう、帰ったわ。こいつが私の彼氏になったから、お前らケジメってやつを教えてやりな」


「え……その……」



「兄ちゃん、お嬢の彼氏になるってんなら覚悟みせなくちゃあな。

 ちょっとこいつ持って、カクヨム組の事務所行ってきな」



拳銃とドスを持たされた俺はその足で100縁ショップへと猛ダッシュした。



「この黒い縁、精算させてください~~!!!!」

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