終わりの駅で
それから、幾つかの日が過ぎて。
少女は一人、そこに居た。
青年と約束したその街で。
少女は賑わう駅の中、ぽつりとプラットホームの端に立つ。
空は静かで、遠くまで線路を見渡す事が出来た。
何時戻るかも知れない彼を待ち、少女は毎日の様にそこに居た。
雨の日も、風の日も。どんな日だって少女が欠かす事はない。
慰めの声にも、諦念の声にも、ただ微笑んで。
来る日も、来る日も。少女は歌を歌って、青年を待つ。
ただ彼の残した言葉を信じて。
何時しか木々の葉が散って。
ちらほらと白い冬の使いが舞い降り初めて。
既に少女の存在に慣れた駅員が、木枯らしの中に居る少女へと茶を差し入れた。
「どうだい、彼は。今日こそ来てくれるかねぇ。辛くなったら駅員室に来ても良いんだからね」
「ええ、有難う」
温かな湯気を上げるカップを手にし、少女は気遣う駅員へと微笑んだ。
――大丈夫。帰って来ると約束した。だったら、私は歳を取っても貴方を待ち続けるよ。
そして少女はこれまで過ぎた日と同じ様に、一つの線路の先を見る。
何時もと同じ風景。何時もと同じ日常をまた繰り返す為に――――
「……え……?」
その先へ目をやった時、少女の口から声が漏れた。一瞬、自分の見た物が信じられず、少女はごしごしと目を擦る。けれど、それでも確かに在った。敷かれたレールの上を、ゆっくり、ゆっくりと進んでいる、小さな姿が。
茫然とした侭、少女はそれを見詰め続ける。徐々にその姿は大きくなり、気が付くとはっきりと容姿が確認出来る程となっていた。
――それは。
――それは、少女の待ち続けた――
「シルベスター!!」
もう居ても立っても居られなかった。少女は、マリアベルは青年の名を呼びながら、風吹く線路へと飛び降り、掛けて行く。
それに気付いた青年は、幾らか擦り切れた服で、何の緊張感も無く罰の悪そうに笑った。
「悪いマリィ、バレルの奴、途中で飛行燃料切れてさあ……もう殆ど徒歩で――」
シルベスターの言葉が最後まで続く事は無かった。
マリアベルは勢いよく青年へと飛び付き、その侭ぎゅうと力の限りその体を抱き締めた。
「も、もしかして怒ってる……?」
黙って抱き付き続ける少女に動揺する彼に、マリアベルはぶんぶんと首を振った。そんな訳はない。そんな筈はない。少女に在るのは一つの気持ちだけで。色々な物が溢れて言葉にならない。
だから、少女はくしゃくしゃの顔の侭、顔を上げて、精一杯微笑んで何より伝えたい言葉を口にする。
「――――おかえりなさい……!」
スチールハーツ 十月吉 @10dkt
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